1904年、キング・ジレットのアイデアにより、それまで何百年もの間、行われてきた髭剃りの習慣が変わった。
男たちは、安全のために理髪店などでカミソリを顔にあてて髭を剃ってもらっていた。しかしキングは1枚刃をヘッドに入れて、それをホルダーに装着し、自宅で自身の手で安全に髭を剃ることを可能にした。それが、大量市場シェービング産業の始まりだった。
それから20年も経たないうちに、ジレットの安全カミソリの特許が失われると、新しい競合他社は、人目を引くため(と、特許取得のために)刃の枚数を増やし、使い捨ての1枚刃から替刃式3枚刃や5枚刃、6枚刃までも市場に送り出した。
刃が増え続けたことで、多くの男性が以前より手軽に良い剃り味を体感できるようになった。しかし、黒人男性のように頬髭がカールしている人々にとっては、逆に埋没毛や毛包炎やカミソリ負けといった痛みを伴う症状が起き始める。彼らにとって髭剃りは以前よりも不快になったのだ。
ここに登場したのがトリスタン・ウォーカーである。ウォーカー&カンパニー(Walker&Company)の創業者兼CEOだ。
起業に大規模なアイデアは不要
ニューヨーク市クイーンズ区の「貧困世帯向け住宅で育った」ことを自認するトリスタンは、家族と生活保護を受けて暮らしたこともある。
「僕の目標はたった1つ。それは、できるだけ早く、できるだけ裕福になること」
そのための手段として、「俳優かスポーツ選手になることや、ウォール街で働くことも考えた」が、それは難しいとわかった。残るは起業家だ。「『ここに可能性があるはず』と気づいて、その日のうちにスタンフォード大学ビジネススクールに出願手続きをした」。