国宝に中国の漆を使うと、何が問題なのか 元外資系の英国人と日本人、日本文化を語る

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アトキンソン:これは中国産の品質がいい、悪い、という問題ではないのです。日本産の漆を使わないかぎり、漆をつくる技術自体が日本国内で承継できなくなってしまい、途絶えてしまうのです。日本の漆産業を継続できる形にするためにも、必要なことなのです。

今、見にいくべき日本文化とは?

イベントの終盤では、みるべき文化財・歌舞伎が紹介された(撮影:今井康一)

葛西:歌舞伎の世界でも、小道具の職人の後継者問題があるようですね。とくに和傘をつくる職人さんが少なくなっているそうです。

では、時間の都合もありますので、最後に、おふたりから、この春、見ておくべき文化財、そして、今見るべき歌舞伎を挙げていただきたいと思います。

アトキンソン:私のおすすめは、まずはなんといっても日光東照宮です。現在、陽明門を修復中ですが、2016年の夏には終わるので、ぜひ見ていただきたい。もうひとつ挙げると、大分の宇佐神宮です。宇佐神宮は八幡信仰の始まった場所であり、また、御輿発祥の地でもありますが、その宇佐神宮の本殿の50年ぶりの修復が、この3月に終わります。漆は、すぐにつやがなくなってしまいますので、ぜひ、半年以内に、つやつやピカピカした本殿を見ていただきたいです。

成毛:私の3月のおすすめは、歌舞伎座の「車引」です。これは、菅原伝授手習鑑というなかなか複雑な話の中で、ただただ豪華絢爛で見応えたっぷりの舞台です。ストーリーを知る必要もありません。主役の3兄弟を、花形の片岡愛之助、市川染五郎、尾上菊之助が務めるのもいいですね。この3人は5年以内に見ておくことを強くすすめます。中村勘三郎、三津五郎を失ったため、彼ら花形が急速に成長して中堅になると思われるからです。花形の彼らを見るのは今のうちです。

葛西:歌舞伎に詳しくない方のために補足しますと、愛之助は「半沢直樹」の国税局員、染五郎は松たか子の兄、菊之助は寺島しのぶの弟です。

成毛:もうひとつは、国立劇場の「髪結新三」。私の好きな、江戸世話物と呼ばれるジャンルの代表作で、実に粋です。粋と言えば、「直侍」も粋です。この芝居の見どころは、花道の途中で立ち止まる役者の足の美しさ、そして、舞台の上での本物の蕎麦の食べっぷりです。そんなところを楽しみにする演劇など、歌舞伎以外にありません(笑)。機会があればぜひ見ていただきたいです。

葛西:ぜひ、お出掛けください。おふたりとも、本日はありがとうございました。

片瀬 京子 ライター

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かたせ きょうこ / KATASE,Kyoko

1972年生まれ、東京都出身。1998年に大学院を修了し、出版社に入社。雑誌編集部に勤務の後、2009年からフリー。共著書に『ラジオ福島の300日』(毎日新聞社)など。週刊東洋経済と東洋経済オンラインでは、『成毛眞の技術探検』の構成を担当。

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