長寿「孤独のグルメ」食ドラマで圧倒的存在感の訳 ファンたちが語る10年間愛され続ける納得理由

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「成長物語にすると、達成したらゴールになり、続けるなら新しいゴールを設定しなければならなくなります。そういうドラマをハレとすれば、『孤独のグルメ』はケなので、話が古びないんです。何しろ、原作は約30年前に描かれているんですから。また、何十年も続いた大衆料理店を選ぶなど、流行に左右されない店選びという側面もあるのではないでしょうか」と杉村氏は分析する。

もしかすると、『孤独のグルメ』は21世紀の『サザエさん』『ちびまる子ちゃん』的なドラマなのかもしれない。主人公もドラマの内容も、大きな悲劇も成功もなくブレないから、いつでも安心して観ることができる。ファンたちの声からうかがえるように、仲間意識を持つこともできる。

五郎はシングルだが、現代は1人暮らしが最も多いライフスタイルになった時代である。さらに、家族がいても1人で食事する機会が多い大人はたくさんいる。そうした現代の日常の気分を代弁してくれる存在が、井之頭五郎なのだ。

「孤高の行為」に徹した描き方が共感を得る

このドラマがヒットしたことで、深夜時間帯にひたすら食べるドラマが急増した。しかし、長く続くものや話題になるものは少ない。それは『孤独のグルメ』のスタッフほどは、作り手が食に思い入れやリスペクトを持っていないからではないだろうか。

また、2000年代に入って深夜ドラマに限らず、食が重要な役割を果たすドラマや映画、小説がずいぶんと増えた。しかし、食が人を癒やす、人間関係をよくするなど、食頼みの展開や道徳臭が強い作品も目立つ。

『孤独のグルメ』では、五郎が食べることで仲間ができたり仕事への意欲が高まったりすることはない。ただひたすら食べる、という番組冒頭の言葉「孤高の行為」を描くことに徹して何も押しつけないからこそ、視聴者は自由に感情移入ができ、周りにも拡散したくなるのではないだろうか。

阿古 真理 作家・生活史研究家

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あこ まり / Mari Aco

1968年兵庫県生まれ。神戸女学院大学文学部卒業。女性の生き方や家族、食、暮らしをテーマに、ルポを執筆。著書に『『平成・令和 食ブーム総ざらい』(集英社インターナショナル)』『日本外食全史』(亜紀書房)『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた』(幻冬舎)など。

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