長寿「孤独のグルメ」食ドラマで圧倒的存在感の訳 ファンたちが語る10年間愛され続ける納得理由

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「以前読んだ松重さんのインタビューによれば、シーズンごとに視聴者の声を反映し、演技をブラッシュアップしているそうです。また、シーズン5か6でそしゃく音が大きくなるなど、番組スタッフもブラッシュアップし続けている。演技力、カメラワーク、演出、とすべてが絡み合って成功しているのではないでしょうか」

おいしさを伝える難しさについて、杉村氏はツイッター上で毎日「反省会」が開かれるほど、視聴者に不評だった朝の連続ドラマ小説『ちむどんどん』と比較する。

こちらは、料理が貧相で主人公が料理人の設定なのに料理するシーンが少ない、主演の黒島結菜の包丁さばきが下手、食べるシーンでも皆が「おいしい」しか言わないなど、おいしさを客観的に伝える工夫が少ないことに加え、NHKのドラマガイドのスタッフ座談会で、脚本家、チーフ演出家、プロデューサーの3人が料理に興味がないと話していたことを挙げる。

制作者も出演者も「食べるのが好き」

一方、2014年に発売された『「孤独のグルメ」巡礼ガイド』と翌年に出た『「孤独のグルメ」巡礼ガイド2』に掲載された久住氏のインタビューによると、『孤独のグルメ』では、店探しはリサーチャーに頼んだり、インターネットで検索するのではなく、番組スタッフが自分たちの足で探している。松重氏は食べることが好きで、放送後に再訪する店があるほどだという。

9月30日深夜に放送された『孤独のグルメシーズン10 放送直前スペシャル』によると、現場に入ってから、五郎が追加でオーダーする料理を松重氏自身が選び、脚本家が台本を書き足している。また、店主役を務める実力派俳優が店主の様子を観察し、その人っぽい役に作り上げる。そうした直前での作り込みに、店と料理へのリスペクトがにじみ出る。

おいしさを伝えるには、作り手の思い入れが必要である。作り手自身がおいしいと思っていること、食べることが好きであることが、食を中心にしたドラマでは不可欠ではないだろうか。『孤独のグルメ』については、作り手自身のリスペクトが説得力となり、視聴者に伝わるのだろう。

杉村氏は、もう1つ興味深い指摘をする。ドラマの中で、五郎は商売を大きくするわけでも、恋愛するわけでもない。だからどの回から見始めても、ストーリーがわからず困ることがない。

原作に準じて、各回のタイトルが町の名前とメニュー名になっているため、例えばアマゾン・プライムで気になった回だけ見ることもできる。期せずしてインターネット時代にふさわしく、どのコンテンツから見ても楽しめるようになっているのだ。それは、「このドラマが成長物語でない異色作だから」、と杉村氏は指摘する。

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