このトレンドが続いていけば、国家というプレイヤーの出番は減っていき、代わりに多国籍企業やNGO(非政府組織)や国際機関が中心となる時代がやってくるだろう。1990年代にはそんな夢があった。
国境がなくなるどころか「ボーダフル・エコノミー」に
ところが実際に21世紀になってみると、どうにも勝手が違っていた。「9.11」の同時多発テロ事件には、皆が文字通り腰を抜かした。アメリカはアフガニスタン戦争、イラク戦争に突入していき、軍事予算はむしろ「青天井」となった。サイバー空間も急激に発展を遂げたが、そちらでもセキュリティのコストは増大する一方であった。
2005年にアメリカ南部を襲ったハリケーンカトリーナ、2011年の東日本大震災のような大型自然災害も相次いだ。そして2008年には、リーマンブラザーズ社の経営破綻に端を発する国際金融危機が生じた。2020年以降の新型コロナウイルスによるパンデミック(世界的大流行)も、これらの系譜に加えていいだろう。
こうした「想定外の事態」が起きるたびに、対応に追われるのは各国政府(ときに中央銀行を含む)であった。何のことはない、21世紀も国家の時代だった。ボーダーレスどころか、「ボーダフル・エコノミー」と言えようか。トランプ政権に至っては、本当にメキシコ国境に「壁」を建設した。つまり国境は残ったし、国家は役割を失わなかったのである。
しかも国家は互いに猜疑心を抱き、どんどん溝を深めているように見える。今年は何と、「戦車に乗って隣の国に攻め込む」という古式ゆかしい戦争を、こともあろうに国連安保理の常任理事国であるロシアがやらかした。西側諸国は前例のない規模の経済制裁で対応しているが、エネルギー危機や食糧価格の高騰を通して世界全体を苦しめている。せめてウラジーミル・プーチン大統領が自棄になって、核兵器を使わないことを祈らずにはいられない。
それではグローバリゼーションも終わってしまうのか。そういう見方も少なくないところではあるが、さすがにそうはなっていないようだ。国境に壁を作ってヒトの流れを制限する動きはあるけれども、金やモノやサービスの交換は盛んに行われている。日中貿易だって増えているし、米中貿易は実にその3倍の規模である。
アメリカの対中政策は、オバマ政権下の2015年頃に転換を迎える。それまでの楽観論をかなぐり捨て、経済面でも安全保障面でも、中国の野心を食い止めることが優先事項となった。次なるドナルド・トランプ大統領はさらにショーアップされた形で、ジョー・バイデン大統領はやや控えめな形ながら、対中強硬姿勢では一貫している。ほとんどの政治課題が左右に分裂している今のアメリカにおいて、「対中強硬姿勢」ほど、超党派の支持を得ているテーマはない。
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