「学歴より経験重視」で教育格差が逆に広がる理由 アメリカでは「経験を買う高額ツアー」が浸透

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私は、日本の学力重視の受験制度はそこそこいい仕組みだと思っています。親にお金があろうがなかろうが、学力試験というゲームを乗り越えさえすれば、入学が保証されるという制度は悪くない。

ただ、学力という尺度に偏っているという問題はあります。なので、学力以外の偏った基準を何百個もつくり、その基準をクリアした人間をすべて受け入れるという仕組みが理想なのではと考えています。

教育の目的は個々人によって異なっていますが、「義務教育において」という前提を置けば、1ついえることがあります。それは、「最低限の知識を提供する」こと。子どもたちにとって、義務教育はインフラのようなものなので、生きていくうえで欠かせない知識を得られる場所である必要があります。

日本社会でもアメリカ社会でも、たとえば四則演算を計算するのも難しいとか、満足に読み書きできないという人が一定数いるわけです。そういう人は、将来就ける仕事の幅がものすごく限定されてしまいます。

読み書きや簡単な計算などの最低限の知識は、「学力テスト」と相性がいいので、義務教育の目標として、「テストの点数」を指標にするのは悪くはないと思っています。中途半端に、それ以外の複雑な指標を持ち込んでくると、何をどう評価していいかわからなくなってしまう場合が多い。教育現場も混乱してしまうでしょう。

まずは出発点として、全員が達成すべき目標をわかりやすく測りやすい数値で示していき、そのうえで個別最適化されたカリキュラムを導入していくことが大事だと思います。

「選択と集中」で失敗の大学教育

ただ、義務教育を超えて、もっと広い意味での教育と捉えると、何を目的にするのかは難しい問題です。

たとえば、大学のような高等教育や、研究者への支援などの教育制度を考えると、単一の指標を目標として設定することは不可能です。その場合、1つの目標を設定するというよりは、いろいろな目標を持っている人たちが、自分の追求するべき道を見つけて、好きな方向に邁進できるようにさせるほうがいいでしょう。

なんでも「選択と集中」と言い出すのはよくない。個々人が独自の方向性を追求していけるように薄く広く資源を配分することが重要なのではないかと思います。

そもそも「選択」がうまくいく保証がどこにもありません。

最近の教育に関する議論を追っていると、その時々の流行りに飛びつくような傾向が強いと感じます。「AI」とか「機械学習」といったワードが流行り始めると、「AIについての学習をカリキュラムに導入しましょう」と、今の世の中で一時的に求められている知識を、早い段階で決め打ちして子どもたちに浸透させようと考えがちです。

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しかし、今たまたまヒットしている道に早い段階で流し込んでしまうのがいいのかは怪しいです。その知識が数十年後も同じように必要とされているかはわからないのですから。

たとえば今から数十年前は「原子力」が花形の研究テーマの1つでした。多額の研究費と優秀な人材が集まり、栄華を極めていました。

しかし、1980年代以降、チェルノブイリ原発事故などもあって世界中で脱原発化が進み、また原子力技術も成熟して安定しました。それに伴い、原子力系の学科も力を失い、学生数や教員数がピーク時の数分の1まで減少している大学も多いです。

今、流行っている研究テーマを「選択」し、資源を「集中」させてしまうと、もし、今後そのテーマが原子力のような事態になったときに、日本全体の研究環境が破壊されてしまうリスクがあるのです。

成田 悠輔 米イェール大学助教授・ 半熟仮想代表

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なりた・ゆうすけ

専門は、データ・アルゴリズム・ポエムを使ったビジネスと公共政策の想像とデザイン。ウェブビジネスから教育・医療政策まで幅広い社会課題解決に取り組み、企業や自治体と共同研究・事業を行う。報道・討論・バラエティ・YouTube番組の企画や出演にも関わる。東京大学卒業(最優等卒業論文に与えられる大内兵衛賞受賞)、マサチューセッツ工科大学(MIT)にてPh.D.取得。一橋大学客員准教授、スタンフォード大学客員助教授、東京大学招聘研究員、独立行政法人経済産業研究所客員研究員 などを兼歴任。内閣総理大臣賞・オープンイノベーション大賞・MITテクノロジーレビューInnovators under 35 Japan・KDDI Foundation Award貢献賞など受賞。

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