中から「政府のコロナ対応」見た経済学者の課題感 科学的知見を活用して将来の危機に備えるために

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モデル分析とシミュレーションによって見通しを計算したり、物事を解析したりするのが私たちのできる一番の貢献だと思いますが、加えてコロナ禍では日々膨大なデータが溢れており、それらを整理する人が決定的に不足していました。

私たちはこの点でもお役に立ちたいと思って、五輪の観客数を計算するスプレッドシートを公開したり、国内の大規模イベントの観客数を調べてまとめたりといったことも行いました 。非常に忙しい中、真摯に課題に取り組んでいる方々に、数理モデルやデータを扱える専門家としてそういう形でもお役に立てたという意味では、やりがいがあったと思います。

仲田:私がコロナ分析を通して交流する機会をいただいた政策現場の方々の多くは、直面する課題を解決しようと真剣に取り組んでいて、私たちを含むさまざまな人々の意見や分析に耳を傾け、それらを参考に政策を決めていきたいと考えておられます。

FRB(アメリカ連邦準備制度理事会)で働く中でも同じように感じましたが、今回のコロナ分析の経験を通じても、このことを強く感じました。それと同時に私たち研究者も、政策現場の方々に役立ててもらえる水準の政策分析を提供しなければならないということを強く感じました。

具体性のない意見や質の低い分析を出したり、意思決定の場で何が必要とされているかを深く考えることなく単に自分の研究を説明したりしても、政策現場の方々のお役に立つことはできないと考えています。

専門家チーム編成の課題

――とはいえ、今回お二人が果たしてきた役割は外部の研究者がボランティアベースで担うのではなく、政府内部の専門家会議等に分析チームを設置することでも対応できたのではないかと思います。この点はいかがでしょうか。

藤井:専門家チームの編成については、正直もう少しうまくできたのではないかと思う部分はあります。たとえば、分科会やアドバイザリーボードの中にもっとデータ分析、因果推論を専門にバリバリ研究をやっている人が多く入って、チームの中で具体的なエビデンスをどんどん蓄積できるような体制がつくれていればなおよかったのではないか、という思いはあります。

専門家といえども、具体的な分析を行わなければ、その場その場でエビデンスに基づいた説得力のある発言はできません。コロナの場合は状況が目まぐるしく変動し、そのたびにさまざまな政策対応がなされています。その中で、政策的な課題の一つひとつについて、データを分析して因果関係を吟味するという作業は、政策を立案し、改善しながら実施していくうえで最も重要なものだと思います。

実際にこうした作業に取り組めるように、政府の会議参加者の裾野を広げて、分析の実働を担う若手研究者も入るようになっていけば、今回とは違った対応ができるのではないかと思います。もちろんこれは、コロナ以外の問題でも同様です。

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