中から「政府のコロナ対応」見た経済学者の課題感 科学的知見を活用して将来の危機に備えるために

✎ 1〜 ✎ 36 ✎ 37 ✎ 38 ✎ 最新
拡大
縮小

――これまでは、需要サイド、つまり政策現場に科学的知見を受け入れる土壌をつくるべきだ、といった指摘が多かったように思います。

仲田:分野によっては、政策現場が使えるよい分析や知見を研究者側がいつでも提供できるけれども、政策現場がさまざまな理由でそれを受け入れないというケースもあるのかもしれません。

また、供給側・需要側のどちらに改善すべき点が多いかにかかわらず、科学的知見を政策に活用しようという際にその役割を担いたいという研究者が、分野によっては多くないかもしれない、という可能性もあります。たとえば、経済学専門家の部局を政府の中につくったとしても、そこで2~3年フルタイムでコミットしたいと思う力のある優秀な研究者が、果たして日本にどれだけいるでしょうか。

政策分析への挑戦と気兼ねない学術研究、両方の尊重を

藤井:確かに、積極的に政策現場に関わりたいと考えている研究者は決して多くないのではないかと思います。やはり研究者の目的は、研究の世界にどっぷり浸かってよい論文を書くことです。だから、政策に直接関わりたい、政策現場の方々に発信したいと思っている人は、多数派ではないでしょう。

仲田:政府が研究者をフルタイムで雇用して専門家チームを組織するにしても、そこに適切なポジションやステータスが与えられ、十分な給料が保証される体制になっていなければ、実際によいメンバーを確保するのは難しいのではないかと思います。

コロナ危機、経済学者の挑戦 感染症対策と社会活動の両立をめざして
『コロナ危機、経済学者の挑戦 感染症対策と社会活動の両立をめざして』(日本評論社)書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします。

「科学的知見を政策に活用する」と言うと聞こえはいいですが、それも腰を据えた研究の蓄積と、普段の研究で磨かれた分析能力があってこそだと思います。現実世界から少し距離をおいて数年・数十年というスパンで研究することにももちろん大きな価値があります。

実践的な分析を政策・ビジネスの現場で応用する研究者ばかりになることが社会にとっての最適解であるとは思えません。実践に興味を持った研究者がいつでも政策分析に挑戦できる一方、そうでない研究者は気兼ねなく学術研究に没頭できる。この両方が尊重される環境を整えていくことが、将来の危機に対して備えるうえでも重要だと思います。

仲田 泰祐 東京大学大学院経済学研究科 准教授

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

なかた たいすけ / Taisuke Nakata

米連邦準備理事会(FRB)の主任エコノミストを務めた金融政策とマクロ経済のプロフェッショナル。2020年に日本に活動拠点を移した後、新型コロナの感染と経済影響に関する試算で注目を集める。1980年生まれ、2003年シカゴ大学経済学部卒業。カンザスシティ連銀調査部からキャリアを始め、12年にニューヨーク大博士(経済学)。「社会に役立つ分析」を掲げる実践派経済学者の代表選手。

この著者の記事一覧はこちら
藤井 大輔 東京大学大学院経済学研究科特任講師
関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【動物研究家】パンク町田に密着し、知られざる一面に迫る
【動物研究家】パンク町田に密着し、知られざる一面に迫る
広告収入減に株主の圧力増大、テレビ局が直面する生存競争
広告収入減に株主の圧力増大、テレビ局が直面する生存競争
現実味が増す「トランプ再選」、政策や外交に起こりうる変化
現実味が増す「トランプ再選」、政策や外交に起こりうる変化
【田内学×白川尚史】借金は悪いもの?金融の本質を突く教育とは
【田内学×白川尚史】借金は悪いもの?金融の本質を突く教育とは
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT