もう一点、パンダタクシーは地方のタクシー会社としては珍しく、新卒採用の実績が豊富だということが挙げられる。まだ歴史が浅いベンチャーながら、これまで約30人の新卒が同社の門をくぐっている。その理由について、青栁さんはこう分析した。
「1つは給与形態が明確なことでしょう。タクシー業界は収入がどうしても見えにくかった部分もあり、それが明確化されたのは大きい。とくに女性のドライバーの募集が目立つことも、そのあたりが“安心”につながっているとみています。
その反面、定着率は決して高いとはいえません。定着率は固定給にすればついてくると思っていましたが、今度はもっと稼ぎたい、という方も出てくる。給料以外のキャリアパスなど、働きがいにつながる部分の整備の必要性も感じています」
310円の初乗りに固定給制度と、従来のタクシーの常識の枠に当てはまらない取り組みは、しがらみが強いタクシー業界では敬遠された面もあると容易に想像がつく。その点について聞くと、「そんなことはあまり気にしていません」と青栁氏は笑う。
2002年の規制緩和の影響を受け、一時は福岡でも1000台近く台数が増加した。それも今はゆるやかに減り続け、減車や新規参入が禁止されていた地域でもある。そんな中でも「パンダタクシー」や、海外のトゥクトゥクのように短距離を低価格で移動可能な3輪自動車である「ペロタクシー」など、面白い取り組みを行う企業も出てきているのは目を引いた。
博多は新しいものをどんどん受け入れる土壌がある
旅の最後に、キャナルシティから空港へ向かうタクシーを拾った。まだ歴2年にも満たないという青木さん(仮名・40代)は、福岡という街の特色をこんなふうに表現した。
「福岡全体がそうというわけじゃないですが、博多は新しいものをどんどん受け入れていく土壌があると思うんです。私自身はタクシーもそうあってほしいと。正直、今は売り上げがキツいのでこの仕事を続けるかはわかりません。でも、もし続けるなら個人タクシーを目指すと思いますね。お客さんがすごく気さくに話しかけてくれる土地柄で、仕事自体を嫌だと感じたことはほとんどないですよ」
空港に到着すると、青木さんはトランクルームから荷物を運び出し、「またこの街に来てくださいね」と会釈を交わす。
筆者が出発ロビーへと歩き出したのを確認すると、車両は街に戻る道に向かい、ゆっくりと走り出した。
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