これから2030年にかけて、世界・経済・ビジネスなどを考えるうえで重要な考え方の1つが「ラグジュアリー」です。「はいはい、自慢が趣味の、品のない人たちが好むやつね」「高級ブランドが使いたがる言葉でしょ」と思う人もいるかもしれません。しかし、いま若い世代や感度の高い人たちが注目する「新しいラグジュアリー」は、そうしたものとは一線を画します。
またその中心を担うのは、数年前には「ビジネスで何の役に立つんだ?」「もっと使える知識を教えるべき」とさえ言われた人文系の分野。つまり歴史や文学、哲学などの知識こそ、これから大いに必要とされるのです。
「新しいラグジュアリー」とはどんなもので、いま世界ではどんな動きが始まっているのか。人文系の内容を中心としながら、IT企業の戦略責任者やマーケター、テクノロジー分野の投資家などからも称賛され、各媒体の書評でも多く取り上げられている書籍『新・ラグジュアリー ――文化が生み出す経済 10の講義』から、3回にわたってお伝えします(1回目)。
「ラグジュアリー」という領域
2021年3月、イタリアのファッションブランドであるヴァレンティノの日本向け動画で「モデルが着物の帯のような布の上をハイヒールで歩いた」ことがソーシャルメディアで炎上。「文化の盗用だ」という批判も巻き起こりました。
また2020年、ブラック・ライブズ・マター(BLM)と呼ばれる米国での黒人差別反対の動きに、テニスの大坂なおみ選手が賛同し、これに対してフランスを本拠とする高級ブランドのコングロマリットであるLVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)が「大坂なおみを支持する」という姿勢を示したニュースをご記憶の方もいるかもしれません。
今や企業が商売を考えるだけでは不十分で、社会や政治を視野に入れる必要が盛んに論じられます。そうした新しい時代の渦に先陣を切って入り込んでいるのが、これら「ラグジュアリー」という領域なのです。
この記事では、2020年代のビジネスや社会を読み解くための重要キーワード「新しいラグジュアリー」を解説しつつ、それに関連して「人文系の復権」と「文化盗用」というトピックについてもお話しします。
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