研究で判明「移動中や旅先で仕事がはかどる」理由 「環境を変えるだけ」で作業効率が劇的に上がる

✎ 1 ✎ 2 ✎ 3
拡大
縮小

脳は新しい刺激が好きですから、同じ環境に居続けるということは、脳への刺激は限定的なものとなります。結果、脳をオフモードから仕事モードへ切り替えることが、難しくなってしまうのです。

実際、場所を変えると脳に刺激が入り好影響をもたらすことを、マイアミ大学のヘラーらの研究が示しています。

ヘラーは、被験者132人の移動の様子をGPSで3〜4カ月にわたって記録し、その感情の変化を調査しました。GPSで追うというのが、とても今っぽい研究です。

すると、場所の変化が多い人ほど、ポジティブな感情が高かったという結果になったのです。その後、MRIを使って場所の変化とポジティブな感情との関連を探ったところ、環境の新しさと脳の報酬系に関わる部位の活性化は、密接に関わり合っていることもわかったそうです。

つまり、新しい環境に身をおくと、報酬系が働きますから、“やる気“が芽生えやすいということになります。

旅先で仕事をするとき、思いのほかはかどったりしませんか? 新幹線での移動中なども、いつもより早くメールの返信や雑務をこなすことができ、なんだか集中力がアップしているような気分になります。まさに環境を変えると“やる気”が出る! ということです。

雑音があるほうが創造力が上がる

また、少し雑音があるくらいのほうが仕事がはかどるという方もいると思うのですが、これも実証研究が存在します。

雑音が数多く意識に入ってくるということは、実はそれだけ多くの情報を脳が処理しているというのです。脳の可動域を広く使っているわけですから、創造性を与える、アイディアがひらめきやすくなるとも指摘されています。

イリノイ大学のミータらの研究によると、比較的静かな環境(50デシベル)よりも、適度な周囲の雑音(70デシベル)、たとえばカフェなどの場所のほうが、創造性を求められる仕事においては被験者たちのパフォーマンスを向上させたという報告もあります。

ただし、ゲームセンターやパチンコ店など騒音に近い雑音(85デシベル)においては、パフォーマンスが低下しているので、雑音以上、騒音未満の創造力を向上させストレスにならない空間がおすすめです。

『世界最先端の研究が導き出した、「すぐやる」超習慣』書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

もちろん、雑音が苦手で集中できないという方は、図書館など自分に合った異なる環境を選ぶようにしましょう。

出かけることで、自宅とは違う刺激をいろいろと受けやすくなります。仮に自宅であっても、仕事にしか使わない部屋やデスクを用意する、あるいは庭やテラス、ベランダで行うなどすれば、「新しい環境だ」と脳に思わせることが可能となります。

「家の中で仕事をする」のではなく、「家の中の仕事場所を用意する」ところまで意識してテレワークをすると、きっとはかどると思いますよ。

環境というのは、想像している以上に、私たちに大きな影響を及ぼします。今すぐにできる簡単なことですが、環境を変えると人そのものを変えることだって可能になります。

堀田 秀吾 明治大学教授

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

ほった しゅうご / Syugo Hotta

言語学博士。熊本県生まれ。シカゴ大学博士課程修了。ヨーク大学オズグッドホール・ロースクール修士課程修了。言葉とコミュニケーションをテーマに、言語学、法学、社会心理学、脳科学などのさまざまな分野を融合した研究を展開。熱血指導と画期的な授業スタイルが支持され、「明治一受けたい授業」にも選出される。研究の一方で「学びとエンターテインメントの融合」をライフワークとし、研究活動において得られた知見を活かして、一般書・ビジネス書等を多数執筆、テレビ番組「ワイド! スクランブル」のレギュラー・コメンテーター、「世界一受けたい授業」「Rの法則」などにも出演する等、多岐にわたる活動を展開している。

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT