労働者の6割が健康診断「異常あり」の深刻な事態 しかも「要再検査を放置している人」が約半数も
有所見と判定された人が周りに言われるのではなく、自分の意思で後日、再検査や治療のために医療機関を受診することが望ましいが、前出の伊藤氏は、「例えば、(事業所が実施する定期健康診断にある聴力検査で)聴力に異常があったとしても日常生活に大きな支障を来さないため、医療機関を受診しようという発想にまではいたらないのだろう」と話す。
前出の坂部氏も、「再検査を受けなければ、最初の健診自体の意味がなくなることを真剣に考えなくてはいけない」と強調する。もちろん、職場で有所見の人が再検査を受けることが自然になるような雰囲気の醸成も必要だ。
そんななか、山香病院(大分県杵築市)は健診後に医療機関を受診する「二次検診」の受診率向上に向けた試行的な取り組みをしている。
同院健診センターで健診を受け、生活習慣病(血圧、血糖、脂質)および、がん(肺、胃、大腸、子宮、乳)の項目で要精密検査対象となった人で、健診後3カ月が経過しても二次検診を受けていない人に対しては、従来、郵送の書面を通じて医療機関を受けるよう促す“受診勧奨”をしていたが、2016年から、これまでの3カ月後に加えて、6カ月後にも受診勧奨をはじめた。その効果を、同院健診センター保健師の平早水陽子さんらが調査した。
その結果、2014年に48.4%、2015年に56.0%だった二次検診受診率が、2016年には63.7%に上昇。細かくみると、2016年の受診率は、がんが74.1%だったが、生活習慣病は51.8%にとどまっている。年代別でみると、生活習慣病の受診率は高齢者に比べ若年層で低かった。
この調査では二次検診ついて、そもそも受診しなかった理由も聞いている。その中で最も多いのが、「自覚症状がない」、その後に「前回、受診したが問題なかった」「時間がない」「忘れていた」「自分のことを考える余裕がない」――などと続く。
生活習慣病などでは特に、若年の働く世代は生活全般に余裕がないことなども相まって、自分の健康や未病(発病には至らないものの健康な状態から離れつつある状態)に対して意識を向けにくいことが浮き彫りになった。
コロナ禍の受診控えも懸念材料に
健診結果で有所見となっても、新型コロナの感染拡大による受診控えによって再検査や治療を受けていないケースも想定される。コロナ禍は患者や健診受診者の行動に少なからず影響を与えている。
最近の事例としては、特定健診の実施状況が挙げられる。
特定健診とは、生活習慣病の予防のために40~74歳の人を対象とするメタボリックシンドローム(内臓肥満に高血圧・高血糖・脂質代謝異常が組み合わさり心臓病や脳卒中などになりやすい病態)に着目した健診だ。メタボ健診とも呼ばれる。
厚労省が発表した2020年度の特定健診の実施状況によると、コロナ禍の受診控えと見られる動きがあった。同年度の特定健診実施率は53.4%となり、2019年度に比べて2.2ポイント低下した。
健診後の受診控えによって、早期発見・治療がしにくい環境になることにも留意する必要がありそうだ。
「業務上疾病発生状況等調査」はここから参照可能
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