DX時代に「見知らぬライバル」といかに戦うのか 「クリステンセン後」の新たなイノベーション論
それでもコダックは倒産する。その理由は、コダックがまさしく誤ったゲームを戦っていたからにほかならない。
デジタル化は、顧客の「写真を楽しむ」体験を本質的に変化させたのだ。写真をめぐる顧客体験は、撮影することに始まり、それをストックし、編集し、観賞し、共有することまでが含まれる。スマートフォンはそれを、企業間連合として総合提案した。
カメラモジュール生産者、クラウド保存サービス、編集アプリ開発者、ディスプレイや映像出力ドライバーの生産者、SNSなどの共有アプリなどとの連携の下に、1台の端末で、その顧客体験のすべてを完結させている。そんな総合的な価値提案の前に、単独のカメラがいかに高性能であっても、とてもではないが太刀打ちできなかったのである。
かくして今日、「ゲームチェンジ=顧客価値の転換」は、企業が手を携えて行う、総合的な価値提案によって実現される。
②その価値構造のすべてを1社で完結させることは不可能に近いため、企業間連合「エコシステム」として顧客に製品・サービスを複合的に提供していく。
この2点が、エコシステム・ディスラプションの本質である。
これはGAFAの話ではない
ここまで読んだ皆さんは、大きなゲームチェンジの構想を描いて、業界の全体構造をひっくり返そう、という話だと思われたのではないだろうか。そして、人によっては、「詰まるところ、GAFAやテスラが今、何をしているのかっていう話ですね」という、傍観者的な立場で、他人事のように捉えてしまったのではないかと、私は一抹の不安を覚える。
しかしアドナーは、誠実なる学者の態度として、誰しもに開かれた知として、エコシステム・ディスラプションの実現方法を平易に解説する。その方法を理解すれば、どんな企業でも、エコシステム・ディスラプションを実現できる、そうした確信を持って議論を展開している。もし、GAFAのような巨大企業に攻められたときにはどうしたらよいか、「対ディスラプター戦略」まで記述している用意周到ぶりだ。
そもそも経営学の研究は、多数のサンプルを厳密に検証して、ようやく学術研究として認められる。多数のサンプルが検証されるとは、つまり、その経営策が実行されたならば、狙ったような結果が得られる可能性が高い、ということだ。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら