DX時代に「見知らぬライバル」といかに戦うのか 「クリステンセン後」の新たなイノベーション論

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学者の仕事とは、GAFAの観察記録を書くことではない。多くの企業の助けになる、少なくともある程度の一般性ある理論を生み出すことだ。

そして本書は、過去に世界の名だたる学術誌に掲載されてきたアドナーの論文の中で、厳密に実証してきた事項で構成されている。本書の議論は、適切に使えばどんな企業にとっても新しい事業の展望が開ける可能性があるものだ、ということである。実際に、本書を彩るのは、むしろその侵略に対して上手に企業間で手を携えて反撃した事例だ。

第4次産業革命後の社会へ

なぜエコシステム・ディスラプションという概念が、今こうして登場したのか。

最大の理由は、社会を構成している基盤技術が今、急激に入れ替わろうとしているからである。

私たちが生きる現代は、第4次産業革命の時代と呼ばれる。人の手作業ではなく、機械で加工を行うようになった第1次産業革命(織機など)。その動力源が、人力から機械に変わった第2次産業革命(内燃機関、電力)。

機械の操作・制御を情報技術が行うものとした第3次産業革命(コンピューター、半導体)。これらを経て、私たちは現在、AI、ロボット、デジタル技術が主導する、思考の機械化・暮らしの電子化に特徴づけられる第4次産業革命の時代を生きている。

中川功一(なかがわ・こういち)/1982年生まれ。2004年東京大学経済学部卒業。2008年同大学大学院経済学研究科博士課程修了。経済学博士(東京大学)。大阪大学大学院経済学研究科准教授などを経て独立。現在、株式会社やさしいビジネスラボ代表取締役、オンライン経営スクール「やさしいビジネススクール」学長。専門は経営戦略、イノベーション・マネジメント。「アカデミーの力を社会に」を使命とし、多方面にわたって経営知識の研究・普及に尽力している。YouTubeチャンネル「中川先生のやさしいビジネス研究」では、経営学の基本講義とともに、最新の時事解説のコンテンツを配信している(写真:中川功一)

過去の産業革命が起こったときには、何があったか。良いことなのか悪いことなのか、機械は私たちから仕事を奪ってはくれなかった。私たちは進化した生活空間の中で、相変わらず働き続けている。産業革命のたびに、人類は新しい暮らしと、そこで必要になる新しい事業にシフトしてきたのである。

私たちの生活空間と、そして仕事内容が、今まさに変わろうとしているのだ。産業界ではDX(デジタルトランスフォーメーション)やメタバースといった言葉が飛び交っているのも、こうした文脈の中にある出来事である。

だからこそ、エコシステム・ディスラプションが求められている。第3次産業革命に適応して生まれた各種の製品・サービスが、第4次産業革命においてはつながり合うようになり、新しい生活様式を作り出している。そこに対して、これからの未来はこうやって暮らすのですよ、という価値提案と、それを実現できるエコシステムを創造した企業が成功している。

大きな視座で言えば、時代の変曲点にあって、第4次産業革命を各業界で主導しようとするアクションこそが、このエコシステム・ディスラプションなのである。

中川 功一 経営学者、やさしいビジネスラボ代表取締役

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なかがわ こういち / Koichi Nakagawa

1982年生まれ。2004年東京大学経済学部卒業。08年同大学大学院経済学研究科博士課程修了。経済学博士(東京大学)。大阪大学大学院経済学研究科准教授などを経て独立。現在、株式会社やさしいビジネスラボ代表取締役、オンライン経営スクール「やさしいビジネススクール」学長。専門は経営戦略、イノベーション・マネジメント。「アカデミーの力を社会に」を使命とし、経営スクールを軸に、研修・講演、コンサルティング、書籍や内外のジャーナルへの執筆など、多方面にわたって経営知識の研究・普及に尽力している。YouTubeチャンネル「中川先生のやさしいビジネス研究」では、経営学の基本講義とともに、最新の時事解説のコンテンツを配信。

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