「出前一丁」に即席チャーハンが加わったワケ ラーメン市場との意外な関係

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一方、ピラフという料理がある。こちらは炒めた白米をスープで炊く料理で、チャーハンとは調理過程が逆。今回の商品はそのいずれでもなく、むしろ乾燥した白米に水を加えて電子レンジで温めるという行程から「お粥」の延長線上のような料理。それでも、しっかり「チャーハン」としての味を創出しているのが、驚きである。

日清食品によると、袋麺の「出前一丁」が登場したのが1968(昭和43)年2月12日。その「生誕に合わせて、今の時期に発売を決定した」そうだ。また、チャーハンは出前一丁の「秘伝ごまラー油」との相性も良いことと、「この機会にあの出前一丁の味を即席カップライスでも楽しんで頂きたい」という考えもあったというが、この商品が登場した理由はそれだけで片付けられない。実は今、巷はチャーハンブームなのだ。

“ドロ系”ラーメンの人気が一服

ブームの背景にはラーメンファンの嗜好の変化がある。数年前まで濃厚トンコツに代表される濃厚系ラーメンが席巻。ドロドロのラーメンスープは“ドロ系”ともいわれ、中には“箸が立つほど”の高濃度を持ったラーメンまで登場するに至った。それらの系統は今でも根強い人気を博しているが、あまりに行き過ぎた感があり、昨今はドロ系とは正反対の清湯系、すなわち透き通る醤油スープの人気が上がってきている。

その流れにあるのが、ノスタルジック系と呼ばれる昭和の香りただよう、懐かしさのある醤油ラーメンだが、そのあっさりした味とチャーハンがセットで楽しまれる傾向があるという。今回の日清食品のチャーハンも「出前一丁」の味をベースにしている点からして、「ラーメンとセット」という時代の流れをも汲んでいるというわけだ。

実はこのチャーハンブームは、従来のラーメンシーンを180度変えてしまうという要素をはらんでいる。ラーメンは中華料理がもとになり、日本で進化したといわれているが、もはや日本では独自の文化を歩み、別の創作料理として確立している。ところがチャーハンは今でもれっきとした中華料理の一形態だ。

ということは今後もこのブームが浸透していくと、チャーハンを提供できないラーメン店の人気が下がることもあるかもしれない。ラーメン業界では中華鍋すら存在しない店舗も多く、中華鍋を振れない、換言すればチャーハンをつくれない有名店も数多くいる。彼らにしてみると、チャーハンブームは「目の上のたんこぶ」のようなものになりかねない。昨今は、自動で中華鍋の調理ができる「全自動中華鍋回転調理器」が商品化されたほどだ。

そんな時期での、水を入れて電子レンジにかけるだけで完成する「出前一丁 出前坊やのまかないチャーハン」の新発売。今後のラーメンシーンは、この商品に何かヒントが隠されているかもしれない。

はんつ遠藤 フードジャーナリスト

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はんつえんどう / Hantsu Endo

1966年東京都葛飾区生まれ。東京在住。早稲田大学教育学部卒業。海外旅行雑誌のライターを経て、テレビや雑誌、書籍などでの飲食店紹介や、飲食店プロデュースなどを行うフードジャーナリストに。ライターとして執筆、カメラマンとして撮影の両方を1人でこなし、取材軒数は8000軒を超える。『週刊大衆』「JAL(Web)」などに連載中。また近年は料理研究家としてTVラジオ雑 誌などで創作レシピを紹介している。著書は『はんつ遠藤のうどんマップ東京・神奈川・埼玉・千葉』『おうちラーメン かんたんレシピ30』『おうち丼ぶり かんたんレシピ30』『全国ご当地やきとり紀行』(以上、幹書房)など。

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