世界の海を知る男が故郷・鹿児島で始めた新事業 安全な観光船の背景に漁師としての豊富な経験

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その後、1993(平成5)年にナイトクルーズも始める。ちょうどその頃は川の水質が改善されて再びホタルが川辺を飛ぶようになった等のニュースが注目された時だった。 

「私は海育ちなので、海のホタル(夜光虫)なら一年中いるのにあまり知られていない。観光としても日本ではメジャーではない。人がやらないのだったら、自分が海の中にもホタル(夜光虫)がいることを世に示したいと思った」 

漁師の育ち、世界の海を経験したからこそできた 

観光グラスボートは、設備の維持管理、安全性の確保、集客をクリアしながら運営しなくてはいけない。特にナイトクルーズは、期間限定のイベントで開催しているところはあっても岩﨑さんのように不特定多数の人が年間を通していつでも来られるものは、ほぼないといっていいだろう。 

「船長、副船長、船員を雇わなくてはいけないし、専用岸壁もいるし、船のメンテナンス知識を持つ人も必要です。資金がかかる分集客もしなくてはいけない。大きなホテルでも観光船を持つのは大変です」 

漁師で海を知り尽くし、運航やメンテナンスすべてを自分たちでこなせるからこそできた事業である。漁師の強みが生きている。 

「自分は学歴があるほうじゃないし、体力的に人よりも優れているわけではない。人と競うことも好きじゃない。だからこそ経験や自分の持っている知識で他の人があんまりやらないこと、できないことをやろうといつも考えてきました」 

そして何よりも海とその生き物に対する熱い思いがあった。岩﨑さんは自分で収集した貝を展示したり、漁獲したハリセンボンの針の数を数えて本当に「針千本」かどうか確かめたり、日ごろから海を楽しみそれを面白く伝えてくれる。だからこそ訪れる人が楽しめるのだろう。 

長島町の海は真夏もきれいだが、秋冬になると海はさらに透明度を増す。岩﨑さんの語る海の生き物や海洋史、世界の海の話を聞きに訪れてはどうだろうか。 

グラスボート乗り場横にある砂浜(著者撮影) 
参考文献: 
岩﨑爾郎(1982)『物価の世相』読売新聞社 
岸康彦(1996)『食と農の戦後史』日本経済新聞社 
横田 ちえ ライター

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よこた ちえ / Chie Yokota

鹿児島在住。WEB・雑誌での執筆のほか、企業のオウンドメディア運営やパンフレット製作など幅広く活動。日ごろから九州を中心に全国あちこちを巡り、取材テーマを模索している。最近特に力を入れているテーマは離島や温泉。

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