犬の5倍「殺処分される猫の6割は子猫」という悲劇 「野良猫に餌やり」は必ずしも美徳とは限らない

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生後1カ月までの子猫の場合は、体温調節ができないため保温が必要です。また2~3時間おきに授乳をし、排泄を促さなければならず、収容した瞬間から24時間態勢で対応することになります。センターの数少ない職員では、それができないのが現状です。「可能な限り動物愛護推進員に託すなどして命を繋ぐ努力をしているが、複数匹いればそれにも限界がある」と同センターの職員は話します。

幼齢の子猫の譲渡の難しさはそこにあります。根気や体力、命に対する責任が大きい作業であるため、動物愛護推進員の負担も大きい。単にその部分を増やせばよいということではないのです。殺処分を減らすには、センターに持ち込まれる根本の原因をなくしていく必要があります。

無責任な餌やりが野良猫を増やす

筆者は先日、滋賀県甲賀市に住むAさんから「野良猫トラブル」が起きているという話を聞きました。「近所に住むBさんは数カ月前から自宅の庭で野良猫に餌やりをしていて、そのうち何匹かの雌猫が子猫を産んでしまい、あっという間に20~25匹に増えてしまった。その猫たちのことでさまざまな問題が起きている」というのです。

Aさんの家の庭はその猫たちの排泄場所になっていて、糞害や悪臭に悩まされていました。車や家の壁に傷をつけたり、花壇や植木鉢を壊すこともあったといいます。

このまま猫が増え続けたら大変なことになると不安を感じたAさんは、「猫が急に増えたけど大丈夫?」「何か対策をしたほうがよいのでは?」と、Bさんに声をかけました。

しかしBさんは、「うちの子じゃないんだけどね」とまるで関係ないと言わんばかりの返答だったとか。Aさんは「餌やりをするなら野良猫であっても飼っているのと同じ。責任を持って不妊手術をするなど猫が増えないようにしてほしい」と話します。

また、Bさんの隣に住むCさんにも話を聞くと「庭で産まれたばかりの子猫5匹を保護したので、Bさんに伝えたが関係ないと言うので、保健所に連絡して引き取ってもらった。餌やりをするのなら多少の責任を持ってほしい」と言います。

「うちの子じゃないんだけどね」は、筆者も何度か耳にしたことがあります。それは餌やりをしているものの、「何か問題が起きても私には責任はない」と宣言しているようなものです。

野良猫を不憫に思っての行動でも、その先を考えない無責任な餌やりは、ご近所とのトラブルが生じるだけでなく、不用意に猫を増やしてしまい、結果的に多くの命を無駄にすることになります。

滋賀県動物保護管理協会は、飼い主のいない猫に餌やりをするなら、「家族の一員として室内で飼養する」「飼ってもらえる人を探す」「不妊手術を施し、これ以上増やさないようにする」「餌やりが周辺環境に悪影響を与えない場所を選ぶ」「トイレを自宅敷地内に設置するなど、排泄物の管理をしっかりする」と啓発しています。餌やりという行為には少なからず責任が生じるということを、理解する必要があるでしょう。

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