「物語という共感装置」がもたらすダークサイド 「強い憎しみ、強い愛」から世界を救う2つの手段

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「どうやって物語から世界を救うか」がポスト真実の時代の喫緊の課題です(写真:Kanashkin/PIXTA)
陰謀論、フェイク・ニュースなど、SNSのような新しいテクノロジーが「ストーリー」を拡散させ、事実と作り話を区別することが困難になりつつある現代。
このたび、上梓された『ストーリーが世界を滅ぼす──物語があなたの脳を操作する』を「ポスト真実の時代の指南書」であると指摘する、思想家の内田樹氏が読み解く。

「ポスト真実の時代」の実相

「ポスト真実の時代」という言葉が私たちの時代を形容する語としてふさわしいものであると実感されたのはいつか。これについてはかなり厳密に時日を挙げることができる。

『ストーリーが世界を滅ぼす──物語があなたの脳を操作する』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします。紙版はこちら、電子版はこちら。楽天サイトの紙版はこちら、電子版はこちら

それは2017年1月22日である。その日に放送された「ミート・ザ・プレス」のインタビューにおいて、アメリカ合衆国大統領顧問ケリーアン・コンウェイは、ホワイトハウス報道官ショーン・スパイサーが、第45代アメリカ大統領ドナルド・トランプ大統領就任式には「過去最大の人々が就任式をこの目で見るために集まった」と虚偽の言明をしたことについて問われ、その言明は「もう一つの事実(alternative facts)」を伝えるものだとして報道官の発言を擁護したのである。

この世界には単一の、客観的な現実などというものはもう存在しない。存在するのはさまざまな視座から眺められ、さまざまなフレームで切り取られ、さまざまなコンテクスト上に配列された、似ても似つかぬ事実たちである。「alternative facts」を日本のメディアは「もう一つの事実」と訳したけれど、よく見るとわかるとおりコンウェイはこのとき複数形を使っている。「もう一つ」どころじゃないということである。

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