「物語という共感装置」がもたらすダークサイド 「強い憎しみ、強い愛」から世界を救う2つの手段
「政治の分極化、環境破壊、野放しのデマゴーグ、戦争、憎しみ―文明の巨悪をもたらす諸要因の裏には必ず、親玉である同じ要因が見つかる。それが心を狂わせる物語だ。本書は人間行動のすべてを説明する理論ではないが、少なくとも最悪の部分を説明する理論である。
今、私たちがみずからに問うことのできる最も差し迫った問いは、さんざん言い古された『どうすれば物語によって世界を変えられるか』ではない。『どうすれば物語から世界を救えるか』だ」(『ストーリーが世界を滅ぼす』29〜30頁、強調部分は著者)
物語が私たちを魅了するのは、それに確かな実効性があるからだ。ゴットシャルによれば、私たちが今も愛用しているナラティブの原型は新石器時代からそれほど変わっていないらしい。最新の人類学的知見は狩猟採集民がとてもフレンドリーで相互扶助的なコミューンを形成していたということを教えている。
「狩猟採集民の生活の大原則は非常に単純だ。仲間を結束させることは何でもせよ。仲間割れの元になるようなことはするな。分断の種を蒔くな(食物、セックスパートナー、注目など)自分の分け前以上を独り占めするな。腕力に恵まれていてもそれを誇示するな。狩りの才能や魅力的な容姿があっても他人にひけらかすな。つまりは良い人であれ」(前掲書161頁)
物語は共感の数だけ非情を生む
そのような原始の共同体を安定的に維持するためにストーリーの太古的な原形が創り出された。宗教や道徳や経済活動や親族形成についての規範をメンバーたちが深く内面化するための最も効率的な道具が物語だったからだ。「私たちは物語を通して最も多く、最もよく学ぶ」(前掲書45頁)からだ。物語を通じて集団の若き成員たちは、集団の宇宙観と価値観と美意識と行動規範を身につける。
けれども、物語が狩猟採集民由来の太古的な起源を持つという事実そのものが物語の限界にもなる。
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