「哲学的才能」の有無を決める2つの要素

半分は科学、半分は芸術。それが哲学

私の場合、引っかかっているのは「時間」なのですが、アリストテレスからのいかなる時間論を読んでも、自分の実感している時間とはズレている。カントも、ヘーゲルも、ベルクソンも、フッサールも、ハイデガーも、「それ」を語ってはくれない。

私は「それ」をまだ語り尽くしていないゆえ「それ」が何であるかは完全には知らないのですが、それでも「それ」がアリストテレスやカントの語っている時間でないことだけは知っている。そこで、卒業論文を提出してからずっと、「それ」をアリストテレスに託して、カントに託して、フッサールに託して、語り続けてきたのです。

「自分固有の問題」にエネルギーを燃やしているか

それは際限のない作業です。不思議なことに、いつか自分の実感している「それ」をすべて語っている哲学者を発見するかもしれない、あるいはすぐにでも現われるかもしれない、という心配(そうなら自分が哲学する理由はなくなる)は原理的にない、という「自信」を持つようになる。もちろん、これが単なる妄想でないという保証は、最終的にはないのですが、それを保証してくれるのは先輩や仲間たちの評価であり、仲間たちとの議論だというわけです。

このあたりで哲学は芸術と似てくる。確かに、誰も表現したことのない世界を表現しなければ芸術家ではない。しかし、これは比較的簡単であって、誰も表現したことのない世界であっても、何の感動も呼び起さない駄作は無限にありえる。そのうちから、芸術と呼ばれるものを抜き出すのは、やはり先輩や仲間たちという専門家集団の評価ではないでしょうか。

話を哲学に戻すと、哲学は客観的と主観的との絶妙なバランスの上にある。万巻の哲学書を読破し理解しても哲学者というわけではない。といって、ただの自分の個人的見解だけを綴っても哲学者ではない。

しかし、実際のところは、哲学的才能はたやすく見分けられます。自分の個人的見解があまりにも強烈なので、どうにかして解決のヒントを得ようと主だった哲学者たちの見解に興味を抱き、むさぼるように読み、しかも、いかなるほかの見解によっても呑み込まれないだけのエネルギーをそなえている(と自覚している)人が正真正銘の哲学者になるのです。

そうは言っても、ほとんどの職業哲学者は大学教員であって、受験秀才であって、必ずしもほかの見解によっても呑み込まれないだけのエネルギーを背景にした「自分固有の問題」を持っているわけではない。彼らは、カントの専門家やハイデガーの専門家(哲学学者)になっていく。そして、同じように哲学学者を養成することに勤しむのです。それが(全国の、いや全世界の)哲学科の大学院だと言っていいでしょう。

それが絶対的に「悪い」わけではない。しかし、それが正真正銘の哲学でないことだけは確かです。ですから、哲学の先生のうち「よい先生」と「悪い先生」はすぐに見分けられる。もちろん、古典的哲学書を正確に読解できない人、すなわち勉強していない人・思考していない人は「悪い先生」です(驚くほどたくさんいます)。しかし、よく勉強し・よく思考し、よって立派な哲学学者なのですが、自分が哲学学者であることに疑問を持たないばかりか、それを誇っている人も、同じように「悪い先生」です。

では、「よい先生」とはどんな人か? カントのように、天才的な哲学活動をしている人は、もちろん「よい先生」ですが、よく勉強し・よく思考し、よってりっぱな哲学学者なのですが、そのことを無限に恥じている人もまた「よい先生」です。そして、私は、というと、少なくともカントに関しては、かなりよく勉強し・かなりよく思考し、しかもカント学者ということをずっと恥じているのですから、その点では「よい先生」の末席に連なるかもしれませんね???

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