そのときは、怖くなって1階の義父母に助けを求めに行った。2階で起こったことを告げると、義父母はみちえを居間に招き入れた。そして、お茶を運んできた義母が言った。
「まさのりが落ち着くまで、ここにいなさい。いったん怒り出すと、もう手がつけられないから。何か言うと火に油を注ぐようなもので、さらに大声を出して暴れるからね」
2階から、相変わらず大声を出しながらわめき散らし、ドンドンと壁を蹴ったり、床を踏みつけたりする音が聞こえてきた。暴れている様子が丸聞こえなのに、義父母は何も起こっていないかのように平然としていた。
そのとき、“親も親なら子も子”と思ったそうだ。
息子が暴言を吐き、暴れ出すと、親は声を押し殺して怒りが通り過ぎるのを静かに待つだけ。感情のままに怒りを大爆発させることをよしとして育ってきた元夫は、これからもキレては罵詈雑言を喚き散らしながら、大暴れをするのだというのを、そのときみちえは悟った。
子どもができても変わらない
しかし、ほどなくして妊娠がわかり、男の子を授かった。子どもの父親になれば、夫も少しは変わるのではないかと淡い期待を抱いたが、まったく変わらなかった。みちえは、私に言った。
「人の性格は簡単に変わらない。キレやすい人、短気な人というのは、育った環境でそうなったというよりも、生まれ持った性格がそうなのではないかと、元夫を見ていて思いました。息子は穏やかな子に育ってほしかったけれど、小さな頃からちょっとしたことでかんしゃくを起こして、父親そっくりの性格でした」
離婚をしたのは、息子が中学に入る年だったという。
「全寮制の学校に行くことになったので、私も離婚の決心がついたんです。離婚をしてからは、“もう結婚はこりごり”と思っていたのですが、コロナになって、家族やパートナーの大切さを改めて感じたんですよね。息子ももう社会人になったし、私は私でこれからの人生を考えていかなきゃと思っています」
ありさも、みちえも、「次に結婚する人は、滅多なことでは怒らない、穏やかな人がいい」と口を揃えて言っていた。
配偶者の言葉の暴力に悩んでいる人たちは思いのほか多いのだが、その夫婦生活から抜け出すための行動を起こす人は、少ない。もう何年も続けている生活を変えるのは、エネルギーも、自立心も、経済力も必要だからだ。また、人間の脳は、ルーティーンを壊すのを嫌がる傾向にある。
仲人として婚活者にアドバイスしたいのは、「怒りの沸点が低い人は、パートナーに選ばないほうがいい」ということだ。
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