「親友と偶然街で会って夕食をとってくるのが、そんなにいけないこと? 男じゃなく、親友は女ですっ。ちゃんとLINEで連絡を入れたじゃない。前々から言おうと思っていたけど、束縛、キツくない? 『俺のメシはどうするんだ』って、子どもじゃないんだから、外で食べてくるとか、家で冷凍食品を食べるとか、なんでもできるでしょう。私も働いて、家計にお金を入れているし、もう少し自立してよ!」
それを言った途端、元夫は「ウォー!」という雄叫びをあげて、冷蔵庫の前に行き、「このバカ女が、俺に命令するのか」と言いながら、冷凍庫に入っていた冷凍食品を次々に取り出して、床に叩きつけていった。
「自分がやったことが間違っているのに、何正当化してるんだ。俺をこんなに怒らせやがって、どうしてくれるんだ」
冷凍庫が空っぽになると、今度はリビングに行って、ソファーを蹴飛ばしたり、クッションを壁に向かって投げつけたりしながら怒鳴り散らした。そんな彼を見るのは初めてだったので、ありさは怖くなって体が固まってしまったという。
一度大爆発してからは、がまんしていた“たが”が外れたのか、よしおは、ささいなことでキレては暴言を吐いたり、部屋をメチャクチャにしたりするようになった。ただ、どんなに暴れても、ありさに肉体的な暴力を振るうようなことはなかった。そして、大暴れした翌日にはシュンとして、借りてきた猫のようにおとなしくなっていた。
ありえない夫のひと言で離婚を決意
離婚を決意したのは、結婚して5年目、妊娠した子どもを流産したのがきっかけだった。ありさは、私に言った。
「なかなか子どもができなかったので、授かったときの喜びはひとしおでした。だから、流産したときのショックも計り知れないくらい大きくて……。本当に悲しくて、元夫が帰ってくると、自分がどれだけ傷ついているかを毎晩のように話していたんです。私もあのときは精神的に錯乱していたんだと思います。そうしたら、あるとき『また、その話か』って、急に怒り出して」
そして、驚きの言葉が耳に届いた。
「お前の卵ができそこないだったんだから、仕方ないだろうが」
“できそこない“という言葉を聞いて、頭が真っ白になった。そこから体調を崩し、実家に戻った。精神科に通い、会社も3カ月休職し、離婚の話し合いに入ったという。
「実家に帰ったときに、母に、『こんなことも言われた』『あんなことも言われた』と彼に言われた数々のひどい暴言を伝えたら、『でも、暴力は振るわれなかったし、ケガをしなかったのが不幸中の幸いよ』って。で、そのときに思ったんですよね。肉体的暴力を振るわれなかったから、結婚生活を続けてしまったんだなって」
いっそ暴力を振るわれたほうが、もっと早めに結婚生活に見切りをつけることができたのではないか。
「離婚して思ったんですよね。毎日、彼を怒らせないように、顔色を見ながら生活していたなって」
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