「陰謀論の魔力」に感情を操られてしまいがちな訳 「物語」そのものに内在する「副作用」とは何か

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わたしたちが何らかの物語に惹かれるとき、知らず知らずのうちに他人によってコントロールされている可能性があります(写真:Sergiy Tryapitsyn/PIXTA)
陰謀論、フェイク・ニュースなど、SNSのような新しいテクノロジーが「ストーリー」を拡散させ、事実と作り話を区別することが困難になりつつある現代。このたび、上梓された『ストーリーが世界を滅ぼす──物語があなたの脳を操作する』で、著者のジョナサン・ゴットシャル氏は、人間にとって大切な財産である「ストーリー」が最大の脅威でもあるのはなぜなのか、を明らかにしている。同書を気鋭の批評家、ベンジャミン・クリッツァー氏がわたしたちの実践できる対処法とともに読み解く。

いまや誰もが「物語漬け」

わたしたちは「物語」が大好きだ。配信技術と電子機器が発達したおかげで、漫画や小説などの書物だけでなく映画やアニメなどの映像までもがいつでも観られるようになった現代では、「物語のビッグバン」が起きている。

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1年間に制作されて配信・販売されるフィクション作品の数は、数十年前のそれをはるかに上回っている。出社している会社員ですら通勤中や昼休みにお気に入りのドラマをスマホで視聴することのできる時代だ。いまや誰もが物語漬けになっている。そして、わたしたちのほとんどは、この状況を悪く思っていない。

学問や批評の世界では「アメリカ資本で制作されたドラマが世界中に配信されることで欧米的な価値観のプロパガンダが行われている」という議論がなされたり「女性を性的に表現したアニメがはやることで現実の女性差別が悪化する」という批判がされたりすることもある。

だが、物語研究や文芸批評においても、物語が持つ価値やよさのほうが強調されることのほうが大半だ。たとえば、少数人種やLGBTなどのマイノリティーが主要人物として登場するドラマを観ることは、それらの登場人物に対する共感を通じて、実際の社会に存在するマイノリティーに対する偏見や差別意識を是正する効果がある、という研究はよく知られている。

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