中国にとって、台湾統一は「必ず果たされるべき歴史的課題」ですが、そこには「軍事リスク」と「経済リスク」があります。まず、軍事的に、損耗率などをコントロール可能な範囲で台湾侵攻・占領が達成できるかどうかが重要です。
しかし、仮にその勝算が得られたとしても、中国にとってより重要なことは「経済リスク」、すなわち「侵攻に伴う経済的ダメージに耐えられるかどうか」です。
軍事的には、総合力ではアメリカ軍には及ばないものの、局地戦に限定すれば、勝算を得られるタイミングはそれほど遠くないかもしれません。しかし、軍事侵攻の結果、世界中から非難を浴び、厳しい経済制裁が課せられ、中国経済が致命的なダメージを受けてしまっては、国が混乱し、共産党体制の崩壊にもつながりかねません。
これまで筆者は、中国の台湾戦略について、軍事面で勝算が得られても、経済的ダメージ必至の軍事侵攻というオプションは取らず(取れず)、時間をかけて経済力で台湾を取り込む「囲い込み(持久戦)」をメインシナリオと考えてきました。
しかし、今回のロシアのウクライナ侵攻で明らかになった「意外なほど、無力な西側諸国の経済制裁」は、中国にとって台湾侵攻を思いとどまらせる「経済リスク」を大きく低下させたのではないかと懸念しています。
対中制裁は対ロシア以上の骨抜きになる
中国は、以前より「一帯一路政策」で「仲間(友好国)作り」に励み、同時に、先端半導体の自国開発等「自給自足」実現に向けた経済政策を推し進めています。世界経済における中国経済の存在感の大きさを考えれば、西側諸国が中国に経済制裁を課しても、「返り血」を恐れ、その内容は対ロシア制裁以上に骨抜きにならざるをえないと思われます。
そのうえ、多くの「友好国」が中国を支援し、かつ、ある程度の「自給自足」体制が確立できれば、中国にとって、怖いものはなくなります。「仲間作り」と「自給自足体制確立」の取り組みは依然道半ばであり、現時点で、中国が拙速に台湾に手を出すとは思えませんが、「経済リスク」の克服に向けた準備は着々と進んでいます。
これまで見てきたように、中国が、台湾侵攻に踏み切るには「軍事」のみならず「経済」面の環境を整えることが必要です。日本国内では、台湾有事への備えとして軍備増強の必要性だけが強調されていますが、日本として、中国の台湾侵攻を経済面から抑止するにはどうしたらよいか、といった議論も深めていくべきではないかと思います。
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