「統一教会」が米国に寿司を広めた知られざる経緯 日本人信者たちがいかに寿司企業を拡大したか

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タケシ・ヤシロは、トゥルー・ワールド・フーズの社長として、1999年に子会社群の正式名称変更の準備作業を行った。トゥルー・ワールドの新しいロゴは、人型のTとWを囲む半球状の2本の矢が宇宙の「ギブ・アンド・テイク」を象徴したものだ。これは統一教会のエンブレムから借用したもので、文は個人的にデザインを承認した、とヤシロは語った。

今にして思えば、全米に展開する寿司の卸売企業の出現は、神の所業とも思えるほど突然の出来事だった。しかし、実際には、トゥルー・ワールドの成功は、ゆっくりと積み重ねられてきたものなのである。例えば、教会によるお見合い結婚では国籍が異なる夫婦が多く、これは日本の「魚のパイオニア」たちが合法的にアメリカに滞在することを可能にした。特に初期の頃は、信者たちは共同生活をしながらわずかな報酬、あるいは無給で働いた。

携帯電話のネットワークのように広がった

事業拡大に際しては、活動の資金援助をしていたハッピーワールドの日本人メンバーが、その豊かな資産力と信用力で、ニュージャージーの冷凍倉庫など新たな施設などを購入し、トゥルー・ワールドの事業規模と地理的な範囲を拡大することを後押ししたのである。

その文化的影響力を数値化することは難しい。しかし、水産業のパイオニアたちがボストンからシカゴ、デトロイト、アトランタ、ダラス、そしてその先まで寿司の新境地を開拓し、大きな変化をもたらしたことは明らかである。デンバーのレストラン「寿司伝(Sushi Den)」の副社長であるヤス・キザキは、「トゥルー・ワールドがなかったら、デンバーは寿司で大きく遅れをとっていただろう」と語る。

文の信者たちは、ブームを起こしたわけではなく、盛り上げたのである。まるでアメリカで最初、かつ唯一の全国的な携帯電話ネットワークのように寿司のネットワークを築き、勢い増し続けることで、誰もがどこにいても腕のいい寿司職人の店に行けるようになった。そして、そうした職人の店はトゥルー・ワールド・フーズの配達圏内にあるのだ。

(敬称略)

(執筆:Daniel Frosman, The New York Times Magazine)

(2021 The New York Times)

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