「統一教会」が米国に寿司を広めた知られざる経緯 日本人信者たちがいかに寿司企業を拡大したか
寿司は文が考えたものではなかった。「寿司で世界が救えると思いますか?」とナガイ。だが、完全なる偶然でもなかった。「アイデアと現実にはときどきギャップがあり、妥協しないといけない時がある」。
100ドル札の時代から40年近くを経て、ニューヨーク都市圏の寿司店の6割と取引をしているというトゥルー・ワールド・フーズ・ニューヨークに、同社のマネジャーが迎えてくれた。
全米に22あるトゥルー・ワールド・フーズの支社の中で最大となるこの支社は、実際にはニュージャージー州にあり、ニューアーク空港の近くに戦略的に建てられている。時刻は午前6時頃、寿司の世界では午後遅くにあたり、トゥルー・ワールドの配送トラックがマンハッタンに到着しようとする時間帯である。
サッカー場1.5個分相当の冷凍倉庫
冬の南極並みに寒いウォークイン式超低温フリーザーなどの例外を除き、施設の中心部はつねに2℃に冷やされている。ホッキ貝、太平洋産の牡蠣、カリフォルニア産のウニが並ぶ棚の向こうで、従業員がヘアアイロンのようなものを振るい、頭のないチリ産シーバスの鱗を取っている。マグロ部屋では、ボストン産のマグロの塊から細かい骨を取り除く作業をしていた。配車室では、壁一面に貼られた地図や鍵の横でドライバーが朝食をとっていた。活魚室では、湯船ほどの水槽が3段重ねになっており、広大な乾物ゾーンでは、半トンパレットに生姜の漬物のバケツが並べられていた。
倉庫はサッカー場1.5個分よりやや小さい。この倉庫は1980年代後半に、数人の日本の上級信者より購入された。そのほとんどは文が合同結婚式を挙げた人たちだった。
トゥルー・ワールド・フーズは、結局は利益重視のコングロマリットで、その宗教的な背景は興味深くはあるがさして重要ではないかのように見えるかもしれないーー言ってみればマリオット・インターナショナルの寿司版のようなものだと。マリオットは、何十年にもわたって一般株主が主導し、時には創業者一族のモルモン教の信仰とは相反する経営判断(例えば、アルコールの提供など)を行ってきている。