「日本でネットはテレビの脅威にならない」 氏家齊一郎・日本テレビ会長に聞く
そもそも多くのネット放送は、違法なものだ。著作権の問題をクリアにしていないような違法サイトは脅威ですか、そことどのように競争しますか、と聞かれても答えようがない。もちろん、たとえばユーストリームのようなものを通じ、アーティストがライブを中継するようにもなっている。権利関係をクリアにしているものは、まっとうなビジネスだ。これまでもケーブルテレビ、CS、BSなどと競争をしており、そうした中の一つとしてネット放送が伸びていく可能性はある。
競争のポイントは、視聴者を引き付けるようなすばらしいコンテンツ、ソフトを出していけるか、ということ。結局はそこに尽きる。
――コンテンツ制作力がテレビ局の強みとのことですが、強みはむしろ流通を独占している点にあるのではないでしょうか。
何をもって独占というのか。3社であっても激しい競争をしていることがあるし、10社であっても競争をしていない場合がある。社数で決めるようなものではなく、テレビ局の経営者には独占しているという意識はない。たとえば地上波の中にも、独立ローカル局があり、彼らは非常に安く、いい番組を作っている。しかし、視聴者からの支持という点でいえば、ほとんど問題にならない。
「既存のテレビ局が国の財産である電波を独占し続けるのはけしからん」と批判する人もいるけれども、まったくナンセンスだ。免許をもらった出発点はともかくとして、その後の競争たるや、非常に激しいものであり、その競争の中でコンテンツの制作力が磨かれた。
地上波以外にも、ケーブルテレビ、CS、BSなどさまざまな流通経路がある。地上波がコンテンツの流通を独占しているという考え方は、その点から見てもおかしい。魅力的なコンテンツをどのように作っていくか、各社が激しい競争を繰り広げている。
番組が似てしまうのは、商業放送の宿命だ
――激しい競争をしているとはいえ、地上波各社は同じような番組ばかり作っているように見えます。CMが高く売れる、コアである若い女性層からの視聴率を優先しているためです。
確かに、その問題が残っている。今のバラエティ番組などを見ると、もちろん各社とも個性を出そうと一生懸命やっているが、非常に似ている。コアと称するところを狙うとどうしても、ある程度似てしまう。
われわれは商業放送をしているのだから、需要のあるところに行く。お客様がそう望むのであれば、それに応えるしかない。公序良俗を犯すようなものはまずいが、そうでなければいいのではないか、ということだ。お客様が望んでいるものを流すのが、民放の役割だ。
問題があるとすれば、NHKでさえもコア層を狙った番組作りを強化していること。NHKは受信料を国民から徴収することで経営をしている。にもかかわらず、民放並みにコア層の視聴率拡大ばかり狙って番組を作るのが正しいのかどうか。これは議論をする必要がある。