千葉雅也「なぜあなたは哲学を学ぶべきなのか」 現代社会を生きるビジネスパーソンが知る意義

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大きく言って震災以降、日本のSNSは意見対立の面がよりはっきりと出てきたと思います。SNSが日々意見対立の“大喜利”の場になっていて、いろいろな問題に対して大喜利的に「どっちを取るんだ」と迫るような世界になってしまっている。すごくストレスフルな世界になっていると思うのです。

──そういう場において、違う目線が必要であると?

千葉:深く知的に、深く抽象的に考えるというのは、そういう人々が争っている状況の中に自分が入ってどうするかということではなく、その状況を一歩引いて見るということ。そのときにものを見る角度がいろいろあるから、状況を冷静に捉える。「2つのものが対立しているけど、どうしてなんだろう?」というのを、即断をせずに、立ち止まって考えてみることです。だから哲学の基本姿勢というのは、状況に埋没しないことだと思います。

(写真:KAOLI)

身の回りに乱立する二項対立の構造を俯瞰

──でも何のベースもない状態から見方を変えるとなると、具体的にどんなところから始めるべきなのでしょうか?

千葉:そこは、やっぱり勉強なわけです。例えば歴史の本を読んで、日本の戦後の政治がどういうふうに変化してきたのかを知ったら、今の状況だってもう少し引いて見られるわけです。例えば科学技術に関しては、メタバースのような新しい技術によりネットの新しい方向性が話題になっていて、そこにお金が集まっている。でもその流行に単に踊らされるのではなく、そういうネットカルチャーがこれまでどんなふうに発達してきたのかについての本を読めば、もっと冷静に投資判断ができるでしょう。

──必ずしも哲学書というわけではなく、まず世の中に対する興味を深めようと。

千葉:そうです。じゃあ哲学とは何かと言えば、社会のいろいろな事柄や、人間の行動はいろいろな対立軸でできているということ自体、物事の論理を説明するのが哲学なのです。

僕の『現代思想入門』という本は、20世紀後半のフランスの哲学を紹介していて、そこでは前述したような2つのものの対立を「二項対立」と言っています。人はつねに健康か不健康かとか、自然に任せるのがいいのか、人工的な秩序を作ったほうがいいのかとか、いろいろ対立する。だけど、100%どちらかを取るということはできないんです。いずれかを取れば、必ずもう片方のことが問題になってくる。

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