千葉雅也「なぜあなたは哲学を学ぶべきなのか」 現代社会を生きるビジネスパーソンが知る意義
例えば自然派ということでオーガニック製品をいいという人がいたとしても、自分の生活を全部オーガニックにすることなんて、できないじゃないですか。
──物理的にも不可能です。
千葉:私たちは人為的で文化的なものを、生活のどこかには入れざるをえない。あるいはオーガニックのものを使っているといっても、その製造工程には人工的で自然破壊的なものも含まれているでしょう。この世界のすべてを人間のコントロールで設計しようといっても、原発なんか、いつ事故が起きるかわからない。自然のプロセスというのは突然人間を裏切るものですから。
対立しているように見える二項が組み合わさって世界は動く
──実際、予想不可能なタイミングで地震が起きたりします。
千葉:こういうふうに見ていくと、「自然と文化」という考え方は、2つの極の組み合わせであることがわかってくる。みんな自分は自然派だとか、自分はもっとコントロール派だとかやり合っているけれど、実はどっちも極端なのです。そうではなくて、それらの両方が組み合わさって世界は動いていますよ、と少し引いて全体を見ることが大事なのです。そしてその、二項対立の片方を純粋に採用することはできないというロジック自体を言うことができるのが哲学という分野なのです。
──二項対立というのはいつからあるのでしょうか?
千葉:それ、すごくおもしろいというか、変な問いなのですよ。そもそも人間の思考システムというのは、二項対立で考えるようにできているのです。世の中がどうこうではなく、人間というコンピューターがそのようにできている。でもそういう疑問が浮かぶということは、つまり私たちは二項対立でものを考えることを、普段まったく意識していないという証拠ですよね。
例えば「カレーはカロリーが高いから、お昼はおそばにしよう」と言うのも、はっきりと意識していないけれど、例えば、健康と不健康という対立がベースにある。ほとんど無意識に、自分の思考が二項対立で組み立てられているのです。