千葉雅也「なぜあなたは哲学を学ぶべきなのか」 現代社会を生きるビジネスパーソンが知る意義

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──よっぽどお腹が空いていない限り、なんとなくおそばに寄ってしまいそうな実感があります。

千葉:そうですね。そしてその裏には、安心と不安という対立がある。ひとつの物事を決定するというのは、意識下で、二項対立の片方に決めることになっています。

──なるほど。でもそう言われると、どんどん気になってきてしまいます……。

千葉:二項対立で世の中ができているということに気づくことだけが哲学ではありません。いろいろな角度から世界の在り方を抽象的に捉えるのが哲学であり、その1つの切り取り方が、世の中が二項対立でできていると考えてみる、ということ。それは構造主義(※)といわれる考え方なのですが、そういう目線でみると、いろいろなことが二項対立の組み合わせで見えてくる。男性と女性、右翼と左翼、ローカルとグローバル、国内で固まろうとする人と海外のものを受け入れる人。

※構造主義:1960年代にフランスで発展した思想。構造=パターンで、例えばA(映画)、B(漫画)、C(テレビドラマ)のストーリーに同じパターンを見いだすような学問の方法論のこと。

──どんどん線引きが難しくなっていきますね。

千葉:国内で固まろうとする人たちは右翼的だと言われたりもしますが、じゃあそういう人たちが海外からのものをすべて拒否しているのかというと、そんなわけない。純国産のものだけで生活している人なんていないから。二項対立がいろいろなところで意見対立を作り出しているのだけれど、実際のところは非常に曖昧なことがいっぱいあるわけです。

(写真:KAOLI)

二項対立をいったん保留にして、グレーゾーンに目を向ける

──その曖昧さをもう少し大切にしようよ、と

千葉:それは二項対立の脱構築という、デリダ(※)という哲学者が考えたロジックです。脱構築とは、物事を2つの概念の対立で捉えて良し悪しを言おうとするのを、いったん保留にしましょうということ。前述したとおり、実は二項対立というのは純粋にはできていなくて、つねに曖昧な領域がある。そしてそのグレーゾーンが、実は生活においていちばんリアルな部分だということなのです。そこをよく見ていこうという話ですね。

※ジャック・デリダ(1930〜2004):ユダヤ系フランス人の哲学者。ポスト構造主義の代表的人物。
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