キリンの「ミャンマー撤退」に透ける大きな誤算 成長を急ぐ海外事業はブラジルに次ぐ失敗に
キリンHDは貴重な収益柱に成長しつつあったミャンマー事業を維持するべく、国軍系企業との合弁を解消することを模索した。しかし、交渉は難航する。MEHL側としては、金のなる木であるミャンマー・ブルワリーの保有株を手放す理由がないためだ。
合弁解消を持ちかけたキリンHDに対してMEHLは強硬に反発し、一方的にミャンマー・ブルワリーを清算する申し立てまで行った。合弁解消は不可能と判断したキリンHDは、ミャンマーからの撤退を決断。同社の磯崎功典社長は2022年4月の東洋経済の取材に、「欧米(の投資家)などは人権問題に非常に敏感だ。残念ではあるがミャンマー事業をやめようと決めた」と語っていた。
子会社は国軍系企業の100%支配に
苦渋の選択となったミャンマー撤退。しかし、今回発表されたミャンマー・ブルワリーによる自己株取得という撤退手法も、決してベストシナリオとは言えない。
キリンHDの撤退後は、実質的にMEHLがミャンマー・ブルワリーを100%支配するかたちとなる。ミャンマー・ブルワリーは年間100億円以上の利益を生み出す力があり、これらの収益が今まで以上に国軍側に流れる可能性は否定できない。その意味で、今回のキリンHDの選択は国軍側を利する行為と捉えられる可能性もある。
人権対応の面で批判が噴出しない望ましい撤退手法は、国軍との関わりがない第三者への株式売却だったとみられる。実際、キリンHDも当初は第三者への株式売却を模索し、複数の企業から打診があったという。しかし、欧米系企業などは人権リスクから手を上げづらく、売却候補先は限られたようだ。
売却に当たっては、合弁を組むMEHLの同意も不可欠だ。売却先を選んだところで、国軍系のMEHLの意に沿わない企業であればちゃぶ台返しされる恐れもあった。
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