キリンの「ミャンマー撤退」に透ける大きな誤算 成長を急ぐ海外事業はブラジルに次ぐ失敗に

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キリンHDは2022年2月にミャンマーからの撤退方針を発表した際、「6月末までに何が何でも解決する」(磯崎社長)と強調していた。ミャンマー撤退を求める投資家らの視線が厳しさを増す中、結果的にスピード感を優先させた格好だ。

選択肢が大幅に制限されていたことも事実で、西村副社長は「(自己株取得での撤退は)やむを得ない帰結だ。さまざまな要望に応える中で、こうならざるを得なかった」と話した。

ミャンマー撤退はキリンHDにとって、海外での2度目の失敗となる。

1度目は、2011年に進出したブラジル事業だ。約3000億円を投じて現地企業を買収したが、シェア争いの激化や現地の経済情勢の悪化などにより赤字経営が続き、6年で撤退を決断。770億円で売却した苦い過去がある。

人口減少に伴い、国内の酒類市場の縮小は必至だ。さらなる成長に海外展開の強化は欠かせない。ミャンマーはブラジル事業の代わりとなる存在として期待を持って迎えられただけに、被った痛手も大きい。

「3度目の正直」への道は険しい

キリンHDの酒類・飲料の主な海外展開は現状、ミャンマーを除くとオーストラリアのライオン、北米のコーク・ノースイーストなどに限られている。ライバルであるアサヒグループHDの売上高に占める海外比率が45.5%(2021年度)なのに対し、キリンHDの海外比率は35.9%(同)にとどまる。

誤算が相次ぐ海外事業に、あくまでキリンHDはあきらめない姿勢を強調する。「今回で懲りたんじゃないかという声もあるかもしれないが、(海外の)成長市場で案件があれば魅力的なものにしたい」(西村副社長)。

直近では、2020年にアメリカのクラフトビール大手、ニュー・ベルジャン・ブルーイングを買収している。こうした先進国での高単価商品の強化という面では一定の進捗が見られるものの、大きな成長を目指すには、市場拡大が見込める新興国への進出が重要となる。

ただ、ロシアによるウクライナ侵攻やミャンマーの政変など、国際情勢の不透明感は強まるいっぽうだ。カントリーリスクを考慮すると、新たな投資先を見極めるハードルは一段と上がっている。

ブラジル、ミャンマーを教訓に、「3度目の正直」を起こしうるのか。その道が険しいことだけは確かだ。

井上 昌也 東洋経済 記者

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いのうえ まさや / Masaya Inoue

慶應義塾大学法学部政治学科卒業、同大メディア・コミュニケーション研究所修了。2019年東洋経済新報社に入社。現在はテレビ業界や動画配信、エンタメなどを担当。趣味は演劇鑑賞、スポーツ観戦。

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