クレムリン内部を着々と固めるプーチン大統領 国民統制に自信、将来「プーチン亜流」政権発足も

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さらに2022年6月末には、先述のメドベージェフ氏の息子で20代のデジタル系ビジネスマンであるイリヤ氏も与党・統一ロシアに入党したことが正式に発表された。これが、プーチン氏が就任から20年かけて築いてきた巨大な権力・富の壮大な「クレムリン・ピラミッド」の一端だ。政権高官や家族、さらにオリガルヒたちががっちりそのピラミッドに組み込まれている。

プーチン氏の友人で、かつて政権ナンバー2と言われていたイワノフ国防相が軍改革に失敗。プーチン氏は職を解いたが、政権の外には放り出さず、安保会議内に名誉職的なポストを与えた。つまり、クレムリン内部で最高幹部たちはプーチン氏に逆らわない限り、その政権内での地位を保証されているのだ。

早期に完了させるというウクライナ侵攻が当初の計画から崩れて難航している今、プーチン氏は政権内での反乱防止のためにこの「ピラミッド」を一層強固なものにしようと図っている。ただ、プーチン氏が神経を尖らせているのは、オリガルヒによる造反の動きだ。制裁で打撃を受けた富豪たちが自分たちのビジネスを守ろうと、プーチン亜流政権誕生を阻止しようとする動きがあるとのうわさは常にある。次の指導者が引き続き治安機関出身者(シロビキ)になることを恐れているとの臆測だ。

経済界の離反も防ぐ

こうしたシナリオを意識したのか、プーチン氏がオリガルヒへの融和的配慮を見せたのが2022年6月17日にサンクトペテルブルクで開催された国際経済フォーラムでの演説だ。国際的制裁により、製造業はじめロシア企業は打撃を受けており、経済運営でプーチン氏が政府統制強化を打ち出すのではないかとの見方が事前にあった。しかし、逆にプーチン氏は経済発展に向け、民間企業を重視していく姿勢を強調。政府からの規制をさらに減らしていくとの方針を示して、参加していたオリガルヒたちを安心させた。プーチン氏による巧みなオリガルヒの離反防止策だった。

その後、その一員であるアルミ王のデリパスカ氏からは制裁による悪影響を指摘する発言も出たが、治安機関とともにプーチン体制を支える政商集団であるオリガルヒ全体へのプーチン氏の統制は緩んでいないようだ。

以上述べてきたように、プーチン政権は米欧の包囲網が広がりながらもしぶとく政権の動揺を押さえ込んでいる。反政権派が問題にしている「王朝化」についても、国民から批判が起きる可能性はない。指導者の特権的生活を認める風土があるためだ。つまり、近い将来、プーチン政権が反政権派の抗議活動はもちろんのこと、政権内でのクーデターなどで転覆され、侵攻作戦が停止される可能性は限りなくゼロと言える。

となれば、この流血の事態を食い止めるに国際社会はこれからどう行動すべきなのか。「軍事的勝利」の誇示を目指すプーチン氏に領土面でウクライナが譲歩して、何らかの停戦を実現するのか。あるいはウクライナが米欧の支援を得て大がかりな反攻作戦を行い、侵攻作戦を破綻に追い込むのか。このいずれの道しかあり得ない。筆者はロシア軍の兵力・兵器供給が息切れする可能性のある2022年末以降をターゲットに、侵攻継続をロシアに軍事的に断念させるべきと考える。

もちろん深刻さを増すエネルギー問題などで、米欧の「援助疲れ」はこれから強まるばかりだろう。プーチン氏もこの米欧軟化の事態を期待している。そのうえ、核兵器使用というロシアの脅しも潜在的に大きな脅威だ。しかし領土面で妥協して一時的に停戦したところで、「歴史的ロシア」復活を夢見るプーチン氏が将来、対外侵攻を再開する恐れがある。ウクライナと国際社会が粘り強く対抗することが大事だ。

軍事作戦を停止に追い込むことでプーチン氏に国民が抱く一種の「不敗神話」を打ち砕き、国民の目を覚まさせることが必要だ。それによって国民に「プーチニズム」からの決別をしてもらう必要がある。

吉田 成之 新聞通信調査会理事、共同通信ロシア・東欧ファイル編集長

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よしだ しげゆき / Shigeyuki Yoshida

1953年、東京生まれ。東京外国語大学ロシア語学科卒。1986年から1年間、サンクトペテルブルク大学に留学。1988~92年まで共同通信モスクワ支局。その後ワシントン支局を経て、1998年から2002年までモスクワ支局長。外信部長、共同通信常務理事などを経て現職。最初のモスクワ勤務でソ連崩壊に立ち会う。ワシントンでは米朝の核交渉を取材。2回目のモスクワではプーチン大統領誕生を取材。この間、「ソ連が計画経済制度を停止」「戦略核削減交渉(START)で米ソが基本合意」「ソ連が大統領制導入へ」「米が弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約からの脱退方針をロシアに表明」などの国際的スクープを書いた。

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