クレムリン内部を着々と固めるプーチン大統領 国民統制に自信、将来「プーチン亜流」政権発足も

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憲法の3選禁止規定に従い、2008年にプーチン氏から譲られる形で2012年まで大統領職を1期務めたメドベージェフ氏は、盟友プーチン氏とは対照的に政治路線は比較的穏健で、対米欧協調政策を取った。アメリカのオバマ政権との間でこじれていた米ロ関係の改善を図る「リセット」路線で合意した。このため「西欧派」と国内では揶揄されていた。しかし今回の豹変に対し、プーチン氏を強力に支持する極右民族主義団体のサイト「ツァリグラド」も驚きつつも歓迎したほどだった。

さらに、メドベージェフ氏に負けじと新たに後継争いに加わったのはキリエンコ大統領府第1副長官だ。クレムリンにおける内政チームの最高責任者でウクライナ政策も担当している同氏は、これまでは実務を淡々とこなすテクノクラートとみられていた。しかしここへ来て積極的に自らの大物政治家としての存在感をアピール。実務家としての自らの「仮面を取った」と評された。

6月半ばにはそんな前のめりの姿勢が災いして、一度有力紙に掲載された自らの論文が削除されるという勇み足事件も起きた。政府系イズベスチヤ紙のネット版に掲載されたこの論文では、ウクライナ侵攻によって東部・南部でロシア領土を拡大したことを評価。この拡大した領土を「今度10年後も維持することを保証する」と次の大統領への出馬発言とも受け取れるような内容だった。しかし論文はその直後に削除された。キリエンコ氏本人の判断か、政治的に出過ぎた内容とクレムリンが判断した結果かどうか、真相は不明だ。

抑えられたエリート間の対立

こうした最高幹部による後継争いの激化について、クレムリンの元スピーチライターでクレムリンの内情に精通している政治評論家のガリャモフ氏は、あくまでプーチン氏による統制の下での現象と説明する。「今のプーチン政権は、政治エリート間の競争の上で成り立っている。互いの対立が体制にとって破壊的な程度まで過熱しないように、大統領がバランスを取っている。エリート間の行き過ぎた対立はクーデターをもたらす『第2の要因』。『第1の要因』である国民の反乱はすでに抑え込んでいる」と解説する。

その『第1の要因』である世論に関して、プーチン氏は80%という高い支持を保っている。制裁でモノ不足が生じ、生活が苦しくなってもロシア人は驚くほどがまん強い。そして強い指導者の下に結集する。これはロシアに計8年暮らした筆者の実感でもある。欧米から批判されても、一度始めたウクライナ侵攻をプーチン氏が最後までやり遂げることを望んでいるのだ。これは外国人にはわかりづらいロシア人独特の心理だ。

そんなプーチン氏の最近の心の内について、ガリャモフ氏はこう解説する。「元気を取り戻した。まだ侵攻で敗戦が決まったわけではない。勝利は可能だと思っているのだ。ロシアには耐久力があるが、米欧にはそれがないと考えている」。

こうした心の内の背景には、80%という今の支持率がある。今回のウクライナへの侵攻へ道を開いた第1次侵攻とも言うべき2014年のクリミア併合を、国民は熱狂的に支持した。60%前後に落ちていた支持率が一気に80%台に上がった。この岩盤支持層は「クリミア多数派」と呼ばれている。ガリャモフ氏は今の状況について「クリミア多数派はまだ残っている」と指摘する。戦争になれば、何が何でも政権を支持する層が80%になるということだろう。

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