こうして国民の支持を繋ぎとめているプーチン氏にとって、次に大事なのは先述した「第2の要因」、つまりクレムリン内部の掌握だ。この絡みで最近目立っているのが、政治中枢部に対する、家族も含めた丸ごと抱え込みの動きだ。
これを象徴するのがショイグ国防相の処遇だ。侵攻での当初の失敗で軍部への批判が高まり、司令官クラスが解任されたが、ショイグ氏は職にとどまったままだ。今後、国防相の職を解かれる可能性はあるが、個人的な友人でもあるショイグ氏をプーチン氏は何らかの形で政権に残すとみられている。
さらにプーチン氏の後継者問題とも絡んで今注目を集めているのが、パトルシェフ安保会議書記の息子であるドミトリー・パトルシェフ氏だ。2018年、元々銀行家だったドミトリー氏を、プーチン氏は農業相に任命した。その彼が、次の大統領に指名されるのではないかとの臆測が急速に浮上している。その要因は彼の経歴だ。事実上の政権ナンバー2である父親の存在。そしてまだ40代半ばと年齢的にも次の長期政権を築くうえで適しているという見方だ。
プーチン氏の次女も俎上に
本来であれば次期トップ候補として最有力であるはずの父親のパトルシェフ氏だが、彼には大きなネックがある。年齢問題だ。同氏は69歳でプーチン氏より1歳上。これを理解しているパトルシェフ氏は、後継者に自分でなくドミトリー氏を据えることを望んでいるとの見方が強まっている。ドミトリー氏が連邦保安局(FSB)のアカデミーを卒業しており、プーチン氏が好む治安機関出身者であることも強みだ。
このクレムリン内での権力世襲化をめぐる臆測は、プーチン氏周辺でも出始めている。プーチン氏の次女であるエカテリーナ・チーホノワ氏を最大与党「統一ロシア」の党首に据えようとしているのではないか、との観測だ。
この情報の確度はまだ不明だが、一つだけ確実なことがある。最近、彼女の名前がメディアで露出する機会が増えていることだ。元々プーチン氏は、エカテリーナ氏ら娘2人の情報が報道されるのを異常なまでに嫌っていた。多くの政府系メディアも腫れ物に触るように報道してこなかった経緯がある。
それが一転して露出度が増えていることについて、反政府派指導者で現在収監中のナワリヌイ氏派の幹部ウォルコフ氏は「公式の場で触れられることを避けてきた娘たちの存在を公然化する動きだ」と指摘する。娘2人はすでに、さまざまな事業に成功して富豪と言われており、同氏は多くの高官の子息・子女がオリガルヒと呼ばれる新興財閥を含め「互いにビジネス上の関係を持っている」と指摘する。
その典型的例が、先述したキリエンコ氏の息子のウラジーミル氏だ。2021年末にロシアのネット企業VKontakte(フコンタクテ)社の社長に就任した。同社はロシアのネットの半分を支配すると言われる大企業だ。元々は、プーチン氏の友人である新興財閥でロシアを代表する富豪であるウスマノフ氏が保有していた。同氏は侵攻を受け、アメリカ政府から制裁されている。
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