永守重信・日本電産社長--365日、朝から晩まで母に教わった全力疾走(中)
創業以来、M&Aも含め、人の首を切ったことはない。給料の遅配さえ一度もなかった。労働条件は守りたい。「もがいて、もがいて。年が明けても、正月の気分なんてあらへん。生涯、忘れられない正月やった」。
決めた。「雇用は天守閣や。首切りはしない。会社を潰すぐらいやったら、何でもできるやないか」。人員整理をしない代わりに、経営陣以下、社員も最大5%減給する。そして、グループ全社にWPRの大号令を発した。「1円でも効果が出るコスト削減策を全員で発案せよ」。
呼びかけに応えて、社員が提案した改善策は5万以上。それらを次から次に実行に移していった。
DCモーターは金型の内製化率を100%に引き上げた。磁気開発では、設計段階から標準化を進め、7割を共通化した。ファンモーターは業務効率を50%アップ。
タイ工場は製造工程の再編・集約を実施し、電気料金が割高な夕方は操業を止めた。ガソリン車より安い液化石油ガス車に換えた工場もある。残業や会議の進行、在庫の管理基準。全業務を徹底的に見直した。
結果はすぐ表れた。赤字予想だった09年1~3月期は一転、10億円の黒字になり、09年度決算は過去最高益をたたき出したのである。
昨年10月、永守にスカウトされ、三洋電機から転身した前田孝一(副社長)は、WPRで示された一体感に面食らった。「全員が朝から一斉に、机周りのぞうきんがけをする。こうした基本動作が身に付いていることが団結力を生むのだろう」。
会議の半分が「雑談」 綿菓子とハグの秘密
しかし、である。「365日燃えている」社長を頂く日本電産の社員は、それまでも、強烈なハードワークの只中にいた。さらにその倍働き、しかも、賃金カットされるのだ。普通の会社なら、社員の心がバラバラになっておかしくない。ところが、社員は永守の提案を受け入れ、WPRで結束力は一段と高まった。
いったい、永守はどんなマジックを使ったのか。