永守重信・日本電産社長--365日、朝から晩まで母に教わった全力疾走(中)
マジックでも何でもない。永守によれば、「本音で社員と話をしてきたことが非常によかった」。
グループ会社の工場・事業所をくまなく回り、会社の危機的状況をさらけ出した。「母を偉いなぁと思うのは、嫌なこと、つらいことをいつも子供に教えていたこと。歴史に名を残す会社は、不況期には嫌なこと、つらいことを実施している」。
しかし、危機に際して、突然、経営者が巡回してくるだけなら、社員は引いてしまうだろう。永守が卓越しているのは、日頃からの社員への浸透力だ。「1にも2にも、10にも、コミュニケーションが大事」。永守の口癖である。
部課長には「部下と一緒にメシを食っているか」と声をかける。社員への年賀状は6000枚。すべてに一言を添える。「君は髪の色が黒いほうが似合うよ」「性格がおとなしいから、もっと前に出るように」。守衛さんや運転手にも出がけに一言、「寝ぼけていたらアカンぜ」。
毎月、全国を飛び回り、グループ会社の経営会議に出席する。各地で若手社員を集める昼食会では、個人の経歴書を見、自己紹介を聞きながら、一人ひとりを頭の中にしっかり納める。話の大半は雑談である。
「うちの会議は半分くらいが雑談。どんどん話が脱線して、時間がオーバーする。格好つけても仕方がない。雑談がいちばんの社員教育になる」。雑談だから社員もリラックスし、本音が言える。本音を言い合えば、距離がぐっと縮まる。
たとえば、こんな具合。「明石家さんまは面白い。好きだなぁ」と永守。「出演中はいつもに全力だから。だから、仕事は、朝から晩まで、手を抜いてはいかんのよ」。
社員が永守を受け入れる二つ目の理由は、「本気」で接するからだ。
永守の社員教育は厳しい。混雑する京都駅の構内だろうと、取引先300人が出席する賀詞交換会の席上だろうと、容赦なくしかり飛ばす。とくにケアレスミスは許さない。