永守重信・日本電産社長--365日、朝から晩まで母に教わった全力疾走(中)

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 プレゼン資料の年度表記を間違えたIR担当者は「そんなことでは責任のある仕事を任せられない」と一喝された。聞きようによっては「辞めてもらおう」である。

ところが、当のIR担当者は「怖いかって? そんなことないですよ。怒ることには必ず理由がある。後に引きずることはありません」。感情の赴くまま、ネチネチと痛めつけるようなまねはしない。さりげなく、後のフォローもある。

こうした“流儀”も、母親仕込みである。「小さいとき、なかなか綿菓子を買ってくれない。今日買ってくれなかったら、盗んでやろう。そしたら、買ってくれた。どこで愛の手を差し伸べるか、知っているわけ。普段はビシバシやる。けど、どこかで一回、ぎゅっと抱きしめる」。

求心力の三つ目の理由は、有言実行の実績があるからだ。

永守は85年に信濃特機、97年にトーソク、98年にコパルなどを次々と買収したが、その都度「今はボロ会社でも必ず再建してみせます」と言い放った。買収すると、人員整理をしない代わりに労働時間を延長し、仕入先には一律に購買価格の2割引き下げを要請する。応じなければ仕入先を変えるだけ。過酷な要求だが、のんでもらえなければ、こちらが潰れてしまうのだ。強烈なリーダーシップを発揮し、公約どおり、再建の実を上げてきた。

03年に出資し、傘下に入れたサンキョーでも、まず、啖呵を切った。「1年間だけ、だまされたつもりで私の言うことを聞いてほしい」。1円以上の経費支出は部門長決済とし、仕入先交渉に臨んだ。「まけてくれ」と50回連呼し、購買価格引き下げを実現。赤字を垂れ流していたサンキョーは、わずか1年で黒字化し、今や営業利益率10%超。グループの稼ぎ頭の1つである。

乱暴な手法に見えても、実績があるからこそ、社員はWPRに“乗った”のだ。が、永守にとってもWPRは容易な選択ではなかった。その証拠に、WPRの断行に際し、公の場ではめったに話すことのない母親の逸話を社員たちに披露している。=敬称略=

■(下)に続く

(梅咲恵司 撮影:今井康一 =週刊東洋経済2011年2月19日号)

※記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。

ながもり・しげのぶ
リスクに果敢に挑戦する。「安全第一の人生なんて、送る気はしない」。ゴルフの際、キャディのアドバイスを無視して池越えを狙う。結果は「池ポチャや」。失敗しても、「ネアカいきいき、へこたれず」。経営も右に同じ。「人生はサインカーブ。平坦ではなく、悪いことも、よいこともある。どうせなら、楽しまないと」。

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