和歌山のパンダ「ひとり立ち」と同時に引っ越す訳 そもそもなぜパンダは親元を離れるのか?

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そもそも、なぜ子どものパンダがひとり立ちするかというと、パンダは群れをつくらず、単独で生きる動物だから。単独生活する動物の親子が別れる時期は突然訪れる。母親は突然、子どもに対する態度を変え、攻撃的になり、自分の縄張りから子どもを追い出そうとすることがある。

野生下では、子どもは母親から逃げるように旅立っていくが、飼育下の狭い場所ではこれらが難しい。子どもが母親に攻撃されて、逃げ場がないという事態になりかねない。そこで飼育下では、計画的にひとり立ちさせる。

その時期について、アドベンチャーワールドは1~2歳としている。上野動物園でシャンシャンがひとり立ちしたのも1歳半になる直前だった。

一方、欧米の動物園で生まれたパンダは、2歳過ぎまで親子一緒に過ごすことが珍しくない。例えば、楓浜の約半年前にオランダのアウエハンツ動物園で生まれたファンシン(梵星)は、2歳の誕生日を迎えた2022年5月1日も、プレゼントのおが屑の上で母親と一緒に転げ回っていた。

なぜこのような違いが出るかというと、母親の性格、子どもの発育状況、運動場の広さ、飼育方針、連携している中国の施設の判断、野生のパンダの状況など、さまざまなことを考慮して、それぞれの動物園がひとり立ちの時期を決めているためだ。

野生のパンダがいつまで親子一緒にいるかは諸説あるが、2歳頃までだとしても、完全に離れるわけではなく、子どもは母親の縄張りに少し重なるか、近い場所で暮らすこともある。また、野生と飼育下では環境が違うので、必ずしも野生とまったく同じにするわけでもない。

母子がじゃれ合った時間も記録

良浜と楓浜の場合は、良浜が楓浜を構わなくなったというよりも、良浜と楓浜それぞれが1頭で過ごす時間が長くなったことが、ひとり立ちの時期を判断するポイントになった。

「楓浜が良浜に『遊んで!遊んで!』とくっついていた時間が短くなり、良浜と違う場所で竹を食べるなど、別々に過ごす時間が長くなりました。1日にどれくらい良浜とじゃれ合っているかなど、ずっと観察して情報を集めています。そうした記録のほか、楓浜が良浜の元を離れても、しっかり竹を食べて生活できるかなどを判断して、ひとり立ちの時期を検討しました」(中谷さん)

楓浜は、ほかのきょうだいよりも少し遅いひとり立ちとなった。例えば、2016年9月18日生まれの結浜は1歳0カ月、2018年8月14日生まれの彩浜は1歳2カ月でひとり立ちした。一方、2020年11月22日生まれの楓浜は、あと10日で1歳5カ月というタイミングでのひとり立ちだ。その理由について、アドベンチャーワールドは「その年ごとに母親と子どもの様子を見ながら判断しています」と説明している。

1歳の誕生日の結浜(右)と良浜。結浜はこの約3週間後にひとり立ちした。2017年9月18日(筆者撮影)
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