40歳になってから惑った糸井重里の転身に学ぶ事 別の経験をした余裕が他の道筋に気づかせてくれる

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日々の忙しい仕事をこなしながら外国人観光客向けの通訳ガイドの資格を取り、高野山本山の布教師として高野山や寺院での法話にも取り組んだ。彼は視点を自分の内側ではなく周りのために何かできないかと意識している時がイキイキしていた気がすると語る。

この頃、私と知り合い、研究会などでも語り合うことがあった。私の取材した人の中にも、銀行を退職した後にお遍路の先達で活動していた人もいたので、彼のお遍路に関する発表の場に岩瀬さんと一緒に訪問したこともあった。

彼は、会社で働きながら若者に対する法話を行うという二足のわらじを履き続けるか、僧侶の仕事に専念するかで迷っていたこともあった。私は、現場の会社員として働きながら説法や法話を行うことで若者にも自分の考えがより伝わるのではないかとアドバイスした。その後、50歳を越えて12年間務めた会社を退職し、僧侶として独立するとともにYouTubeでも法話を配信している。

鉄道会社でがむしゃらに働いた20代。出家から寺院でのお勤めの30代前半。巡礼、英語教師で自然や人々との一体感を感じた30代後半。ターミナル駅の商業施設開業に向けてさまざまな立場の人々と働いた40代前半。僧侶との二足のわらじを履き続けた40代後半。自分でも不思議な人生だと改めて振り返る。

健康やお金とならんで必要な転身力

彼は会社退職後、活動の拠点を西宮市に置いて葬儀や法事を行っている。また説法も引き続き行っているそうだ。彼を見ていると、長寿社会の現在では、やはり健康やお金と並んで転身力が必要になっていることを感じる。

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一直線に次の転身先を目指す人だけでなく、いろいろな転身プロセスもあり得る。違った道を歩む人、裏道から上がろうとする人もいる。また一度違う道を歩んで戻る人や疲れていったん休む人もいるかもしれない。

いろいろな道があっていい。岩瀬さんのキャリアの流れを見ていると、転身のプロセス自体を楽しんでいるように思えてくる。長い人生なのであちこちに道草した方がいろいろな体験ができて豊かな人生を歩むことができると言えなくもない。糸井重里が釣りばかりしていた時期があったというのも、いったんお休みだったのかもしれない。

道草を経験していない人は、目的だけを考えているきらいがある。別の経験をした余裕が、他の多くの道筋があることに気づかせてくれるのである。私自身も、大学入学前の浪人、大学での留年、会社での長期の休職、定年後の定職を持たない時期など、いくつかの道草を経験したが、無駄なことは何もなかったと今は思っている。たとえ当初描いていた転身先とは異なっていても、そのプロセスが充実していればOKだろう。そういった意味でも、転身力で大切なのはあくまでもプロセスなのである。人生は1試合しかないと思い込むよりも、何回か勝負できるほうがリラックスできてうまくいく。

第1回:山崎邦正⇒月亭方正の転身の裏に見た絶妙な導き(6月25日配信)
第2回:元警官のカレー店主がディズニーで下積みした訳(7月2日配信)
第3回:50代で銀行員→アートへ、彼の転身に感じた意味(7月9日配信)

楠木 新 人事コンサルタント

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くすのき あらた / Arata Kusunoki

1954年神戸市生まれ。1979年京都大学法学部卒業後、生命保険会社に入社。人事・労務関係を中心に経営企画、支社長等を経験。47歳のときにうつ状態になり休職と復職を繰り返したことを契機に、50歳から勤務と並行して「働く意味」をテーマに取材・執筆・講演に取り組む。2015年に定年退職した後も精力的に活動を続けている。2018年から4年間、神戸松蔭女子学院大学教授を務めた。現在、楠木ライフ&キャリア研究所代表。著書に、『人事部は見ている。』(日経プレミアシリーズ)、『定年後の居場所』(朝日新書)、『定年後』『定年準備』『転身力』(共に中公新書)など多数。

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