「予期せぬ妊娠」した韓国女性たちの苦渋の選択 貧困だけが子どもを育てられない理由ではない
是枝裕和監督の初の韓国映画『ベイビー・ブローカー』が6月24日に日本で公開が始まった。
ベイビーボックス(赤ちゃんポスト)に置かれた赤ちゃんをこっそり運び出し売買するブローカーと、子どもを手放そうと思いながらも揺れ動く母親、そして一行を追う刑事の奇妙な旅の物語。その果てにはさまざまな問いが待っている。韓国では6月8日に公開され、23日までおよそ116万人の観客を動員。劇場に足を運んだ半分以上を20〜30代が占めている。
主人公の母親は思いがけず妊娠し出産した女性だ。日本でも昨年12月、同じ境遇の女性が熊本県の慈恵病院で内密出産により匿名で出産したことがニュースになった。
韓国で思いがけない妊娠をした女性はどのような状況に置かれているのか、映画のモデルにもなった韓国の「ベイビーボックス」と、そして、思いがけない妊娠をした女性の出産、子どもの養育、母親の自立までワンストップの支援を行う施設「愛蘭院」を訪ねて韓国の現状を追った。
小さな魚箱の中にいた赤ちゃん
地下鉄の駅からバスに乗り継ぎ、きらびやかな再開発からとり残された古寂びた低い家屋が連なる町を縫って15分ほど。バスを降りると見上げるような急斜面の坂があり、10分近く上って、ようやくベイビーボックスにたどり着いた。
ベイビーボックスを運営しているのは「財団法人ジュサラン共同体教会」だ。「考えたこともなかった」というベイビーボックスを開設したきっかけは2007年、まだ肌寒い春の出来事だった。同教会の李鍾洛牧師が言う。
「明け方3時頃でした。電話をとると赤ちゃんを置いてきましたというんです。なんのことかと急いで外に出ると、教会の門のところに箱が置いてあって中に小さな赤ちゃんが入っていました。小さな魚箱でね。魚のにおいがするからか野良猫が遠巻きに見ていました」
赤ちゃんはダウン症症候群の生後間もない女の子だった。後に李牧師が養子縁組をしている。
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