「予期せぬ妊娠」した韓国女性たちの苦渋の選択 貧困だけが子どもを育てられない理由ではない

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また、院内では母親の自立を支援するプログラムには準看護師や病院の医療コーディネーター課程などが受けられ、ほかの職業を目指す人には学費が出る。現在、愛蘭院で暮らしている母親の中には大検をとって大学に通っている母親もいる。愛蘭院では学費も含めて衣食住すべてが支援対象で無料だ。

青少年以外の思いがけない妊娠をした母親には、ソウル市内の別の場所に成人のための愛蘭院があり、そちらでも同じような支援が受けられるようになっている。 

愛蘭院には原則1年半居住できるが、まだ時間が必要とされる母子は愛蘭院の別の施設に移る。さらに韓国では思いがけない妊娠婦、未婚のシングルマザーなどを支援する施設が韓国全国に65カ所、母子施設は48カ所近くあり、そちらに移る母親もいる。愛蘭院内の5つのネットワーク施設では5〜7年ほどで自立して巣立っていくという。  

これだけの支援になるとやはり資金が重要だ。国からの支援は次第に増えたが「まだ補助金だけでは成り立たない」と姜院長は話していた。

韓国で可決される見込みの「保護出産法」

6月10日、野田聖子・こども政策担当相は「内密出産法」について前向きな姿勢を示した。韓国でも現在、同様の「保護出産法」が国会に審議中で、今国会で可決される見込みが高いといわれる。しかし、この立法化に反対する声も根強い。

韓国の「保護出産法」は、事情により匿名でも出産することができ、母親の身元は国(児童権利保障院)が記録し管理される。子どもはすべて養子の対象となり、成人となり出自を求める場合には実の親の同意の下、閲覧できるようにした内容となっている。

この法律が通過すれば、匿名出産は合法となり、従来、実の親が出生届けをした場合に限られていた養子縁組も可能となるが、「子の遺棄を助長する」とし、「子どもに出自を知られないよう海外への養子が増えて、アイデンティティーに苦しむ子どもを増やすことになる」と反対する声が上がっている。

ソウルのベイビーボックスに向かう途中、この見上げるような坂を、赤ちゃんを連れた母親はどんな思いでのぼるのだろうかと思った。遺棄しようと思いながら? そんなふうにはとうてい思えなかった。思いがけず妊娠をしてしまっても誰にも相談できない女性が愛蘭院に助けを求めるその一歩もとても勇気がいることだろう。そして、愛蘭院に行けない事情を持つ母親はベイビーボックスを訪ねることになる。

「内密出産法」ができても、それを補完する社会システムが必要なことはいうまでもない。日本で映画『ベイビー・ブローカー』はどう受け止められるのだろうか。

菅野 朋子 ノンフィクションライター

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かんの ともこ / Tomoko Kanno

1963年生まれ。中央大学卒業。出版社勤務、『週刊文春』の記者を経て、現在フリー。ソウル在住。主な著書に『好きになってはいけない国』(文藝春秋)、『韓国窃盗ビジネスを追え』(新潮社)がある。

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