「予期せぬ妊娠」した韓国女性たちの苦渋の選択 貧困だけが子どもを育てられない理由ではない
ベイビーボックスの赤ちゃんは2013年から急増した。韓国では2012年、「特別養子縁組法」の改正により、養子に送る場合は、実の親の出生届けが必要になったためだ。これにより、何らかの事情で出生届けを出せない母親がベイビーボックスにやってくるようになったという。
出生届けを出せない事情はさまざまだ。出産したことが通報されると学校に通えなくなるという高校生や、親との関係により言えない、経済難、家庭のある男性との間に子どもができてしまった、性被害者、不法滞在の外国人である……など。
消えない「子どもの遺棄を助長する」という批判
韓国のベイビーボックスは2022年4月末までに2102人の赤ちゃんの命を救ってきた。この中で障害を持った赤ちゃんは125人だ。「救ってきた」と書いたが、韓国でベイビーボックスに反対する声でいちばん多いのが、「子どもの遺棄を助長している」というものだ。「救う」のではなく「遺棄する場所」であるという主張でここ数年、論争が続いている。
韓国でも子どもを遺棄することは「児童福祉法」違反で、2年以下の懲役もしくは300万ウォン(30万円)以下の罰金となる。韓国の警察庁によると、韓国で幼児を遺棄した件数は2010〜19年までの10年間で1272件、殺害は110件とある。ジュサラン共同体教会でも2017年、ベイビーボックスに置いた赤ちゃんを再び引き取りたいと戻って来た母親の存在を警察が知り、起訴されたこともあったそうだ。李牧師は言う。
「警察とはけんかばかりです。まず生命を救うことが第一でしょう。遺棄しようと思って出産する母親などいないんですよ」
李牧師がここ数年力を入れているのが、匿名でも病院で出産できる「保護出産法」(日本では内密出産法)を立法化させることだ。
「友達の家で、山で、公衆トイレで出産したという母親が本当に多い。こうした孤立出産は母子ともにとても危険です。孤立出産をなくすために匿名でも安全に出産できる法の整備が急務です」
韓国では2018年に李牧師が働きかけ、国会で発議されたが、通過しなかった。しかし、2020年、別の国会議員により「保護出産法」という名で国会に再発議され、現在審議中だ。これについては後述したい。
韓国にはベイビーボックスのほかに、思いがけない妊娠をした女性と子どもを支援する施設がある。予期しなかった妊娠を「危機的な妊娠」と呼び、出産からその後の子どもの養育、母親の自立を支援する「愛蘭院(エランウォン)」だ。
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