「予期せぬ妊娠」した韓国女性たちの苦渋の選択 貧困だけが子どもを育てられない理由ではない

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姜院長は2000年に「中間の家」を開設する。この家は障害者など病院での治療が終了した後、日常生活に戻る前に過ごす「ハーフウェイハウス」と同じ概念で、思いがけない妊娠、出産をした母親と子が一緒に暮らせる家だ。「愛蘭院で養育事業を始める」と宣言すると韓国中から母親が集まってきたという。部屋に入れずに廊下にもマットを敷いて寝泊まりする母親たちの様子が報道されると世論も動いた。

最大の問題だった資金も、審査が厳しいことで知られる社会福祉法人「共同募金会」にダメ元で談判に行くと許可がおり、家を借りることもできたという。

「中間の家で暮らす母親たちに聞くと、もし養育できる環境と自立できる教育支援があれば仕事を得て子どもを育てたいという人が7割もいました。これはできる、と感じて本格的に養育事業の準備を始めたのです」

そうして2003年春にオープンしたのが、出産、養育、母親の自立まで支援する「愛蘭母子の家」だった。「社会の認識が追いついていないときはまず目に見える形で行動しないと何も変わらない」と姜院長は話す。

内密出産ではなく、実母が出生届けをする

愛蘭院はその後、さまざまな事情に沿った施設を作っていく。

愛蘭院には「危機妊娠・出産支援センター」が設けられた。電話や対面で相談を受け付け、出産する場合の費用は施設の医療保険が当てられ、職員が付き添う。すべて匿名の内密出産だが、前出した「ジュサラン共同体教会」の「ベイビーボックス」と異なるのは、実母が出生届けをすることだ。

「ここに来て養子に送りたいと話す母親に説明すると、出生届けを出すことに納得します。説得してもそれが難しい母親の場合は法的に解決できるようにすべきです」(姜院長)

母親は出産後、愛蘭院の施設に居住しながら産後のケアを受け、同時に養育教育について詳しく学ぶ。愛蘭院にはいくつかの施設がソウル市内にある。愛蘭院や愛蘭母子の家では青少年が優先され、暮らしているのは10代の学生などだ。中・高校生であれば、建物内にある学校で授業が受けられ、成績は通っていた学校の単位に反映される。

この教育システムは妊娠した高校生の切実な訴えにより2010年から始まった。

「両親にも承諾を得て、父親である同級生と共に学校に通いながら出産、育児をすると決めたのに学校が自分たちを解雇しようとしている(退学処分)と訴えてきたのです。それで教育庁と交渉して、愛蘭院で授業を受けた成績が通っている高校に反映できるようにしました」(姜院長)

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