「予期せぬ妊娠」した韓国女性たちの苦渋の選択 貧困だけが子どもを育てられない理由ではない

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ほどなく障害を持った赤ちゃんが教会の門の下に置かれるようになった。「私の息子は全身麻痺の障害を持ち(3年前に33歳で他界)、長いこと障害児への支援活動をしていました。それをどこかで知ったのでしょうねえ」(李牧師)。

安全に赤ちゃんの命を救うにはどうしたらいいのか──。李牧師は日本や各国の事例を参考にしながら2009年12月、ベイビーボックスを開設した。ベイビーボックスは中世のイタリアで生まれたといわれる。現在、日本、ドイツ、アメリカなど世界12カ国で運営され、年に一度、シンポジウムも開かれている(2020年からコロナ禍で中断されている)。

赤ちゃんの生年月日と名前のメモを残す母親

運営は24時間体制でスタッフは10人ほど。赤ちゃんを連れた母親がベイビーボックスに近づくとセンサーが反応し、中のスタッフにまずベルで知らせる。同時にスタッフは母親に話を聞くために玄関で待機する。

ベイビーボックスにはふわふわのベッドと毛布が敷かれている(筆者撮影)

ベイビーボックスが開くと「エリーゼのために」が流れ、赤ちゃんが来たことを知らせる。ボックスの中は体温が下がらないようにふわふわのベッドと毛布が敷かれている。扉の横には名前と生年月日を記すメモが置かれているが、母親が赤ちゃんと一緒にそんなメモを残していることも多いという。

ジュサラン共同体教会では、ベイビーボックスを運営してまもなく、母親の相談もあわせて行うようになった。李牧師の話。

「子どもを置いていった母親の中には泣きながら電話をしてきたり、精神的に不安定になってうつ病になったり、自死しようとした人もいました。相談する機会を設けるようにしたのは、そうした母親たちの話を聞くためです。『ベイビーボックスまで連れてこられた赤ちゃんはあなた(母親)に守られた子ども。よく連れてきました、ありがとう』と伝えたい。そして、話を聞いた後子どもと一緒に暮らせるよう説得もします。手放して泣くよりも生活がつらくとも一緒にいながら涙を流したほうが、価値があると」

相談後、16%ほどが子どもと一緒に暮らすことを選択したという。

ベイビーボックスを訪れる母親の6割が10代だ。そのため養育費用や、おむつなどの生活必需品などは3年間、そして、必要に応じて学費も支援するという。国からの補助金はなく、すべて寄付で補っている。

養育が難しい母親の子どもは施設に送られることになる。ジュサラン共同体教会で子どもに関する情報を記録・保管した後、自治体と警察へ連絡する。警察では子どもの遺伝子情報を採取し、自治体は赤ちゃんを病院に連れて行く。身体検査を行い、治療が必要な場合は治療を、健康な場合は児童福祉センターに引き継がれる。保護された子どもは一般家庭に一時的に預けられる場合もあり、その後、養子縁組や保育園などの施設に送られる。

次ページ2013年からベイビーボックスに託される赤ちゃんが急増
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