独裁企業「フェイスブック」、ナンバー2退任の岐路 「フェイスブックの失墜」書いたNYT記者が語る

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――そんな中で上層部に警告を出し続けたのが、2015年に最高セキュリティー責任者として入社したアレックス・ステイモス氏でした。ただ深刻な問題を指摘し続けると、会社を追われることになりました。

ステイモス氏は着任直後に全社員のユーザーデータへのアクセスを制限するようザッカーバーグ氏を説得するなど、社内の“抵抗勢力”だった。その後もさまざまな問題に警告を発し続けたが、ことごとく無視された。ただ、彼の存在はいくつかの形で社員や会社に影響を与えた。

1つは、「異論の声を上げてもよい」と多くの社員に示したこと。彼が会社のセキュリティーに対する懸念を公にしたことは、多くの社員が私のようなジャーナリストに話すことなどを促したと思う。

もう1つは、セキュリティーや誤情報防止の重要性にスポットライトを当てたこと。彼の着任後、会社側は数万人の人員を雇用し、ノウハウも蓄積した。政府当局との協力にも積極的になった。

彼の退職後もよい人材を雇っており、社員の不満も高まっていることも受け、物事はよい方向に動き始めている。それでも対応すべき問題は山積みだ。コロナや人種問題、大統領選の誤情報は拡散し続けており、セキュリティーチームが十分に対処できるまでには時間がかかるだろう。

会社が好きだからこそ

――社員たちの声はどのように拾っていったのですか。

セシリア・カン(Cecilia Kang)/写真左。 ニューヨーク・タイムズ紙記者。ワシントンDC支局でテクノロジーと規制政策を担当。以前はワシントン・ポスト紙にテクノロジー担当シニアライターとして在籍した。ダウ・ジョーンズのソウル支局長を務めた経験も。写真右は共著者のシーラ・フレンケル氏(写真:早川書房)

慎重に信頼を積み重ね、取材源のリストを増やしてきた。(共著者の)シーラと私は時に(フェイスブックの本社がある)メンローパークのスターバックスで何十枚もの名刺を渡したり、社員の家を訪ねたりした。

初めはほんの数人しか応じてくれなかったが、信頼してくれた人が他の人を紹介してくれることもあった。

フェイスブックで働くことが好きで、会社を信じている人も多い。そういう人たちは報道されていることが現実と異なっており、正しく理解してほしいから話をしてくれるということも多かった。ただ問題が積み重なるにつれ、懸念を伝えるメールや電話を返してくれる人が増えた。

彼らには内情を話すメリットはほぼなく、むしろリスクのほうが大きい。ただ胸につかえる不安が大きくなり、会社が正義に反しているということを誰かに話したかったのだろう。会社が好きだからこそ、よくなってほしいと思っていた。

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