日本にいる「難民申請者」交流して見えた悲痛現実 6月20日は世界難民の日、知られざる日本の実情

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セバスチャンが難民申請を出したのは、入国して間もなく、2018年のことだ。「不可」の回答が出るのに約3年かかった。理由は示されていない。国では迫害され、命に危険があるから帰国するわけにはいかないとして、2回目の難民申請を出した。

その後、収容と仮放免の生活が続いている。仮放免となって収容施設から外に出ても、就労できず、衣食住は貧困レベルが続く。いつまた収容されるかもまったくわからない。

「仮放免中も結局、収容されている感覚です」

都道府県をまたいだ移動も入管によって制限されている。

「庇護を求めて日本に来ましたが、正直、先が見通せない生活がここまで長くなるとは、思ってもいませんでした」

2回目の難民申請は、いつ結果が出るのか。それもまったくわからない。

セバスチャンの1日は、お祈りと寄付してもらった本の読書、そしてウォーキングで過ぎていく。お祈りと読書は、目の前の生活苦に心をむしばまれないようにするため、ウォーキングは無料で健康を維持するためだ。

「日本の方々はとても親切です。とくに、この国の高齢の女性たちは本当にやさしい。街で困っているとき、よく助けてくれるのがそういう人たちです。できたら自分もこの国で人生を再スタートさせたい。でも、気持ちを前向きに保つのが、本当に……とても困難です」

収容と仮放免の繰り返しがいつ終わるのか、難民申請の結果はいつか。「いつか」がいつもわからない。

日本での申請を諦めても第三国への出国は許されない

日本で難民と認められないことに失望したセバスチャンは一度、入管でこんな訴えをしたと明かした。それは、「日本での申請を諦めるので、別の国に行かせてほしい」という訴えだ。彼のケースは、日本以外の国では難民としてすぐに認められる可能性がある、と支援者らも言う。

「入管の人から『それは無理です』と言われました。『ほかの国に行くんだったら、いったん自分の国に帰ってからにしてください』と。でも、そんなことはできないんです。国に帰ると命に危険がある。だから緊急出国してきたというのに」

日本での難民申請は認められるかわからない。第三国への出国もできない。身動きが取れないまま、時間だけが流れる。30代という人生でも最も活動的な時期が貧困状態となり、働いて家庭を持つという生活も、まったく見通せないままだ。当然、自分の家族にも会えていない。彼の話によると、生き残った数人の家族はそれぞれ国を離れ、複数の国に点在して暮らしているという。

心が折れそうになったときに癒やされるのが、継続して支援してくれている人たちと会う時間だ。春には、親しくしてくれるグループからの誘いで一緒に山に登った。天候に恵まれた登山の写真を見せながら、「しかし……」と彼はため息をついた。

「そのとき、自分の境遇をお話ししたんです。そしたら、皆さん本当に驚いていました。『信じられない!』『難民で来た人に、日本がそんなことしてるの?』って」

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