雅叙園に電通ビル、外資が狙う日本不動産の熱狂 過去の相場を更新する取引が飛び出す背景

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買い手候補として選出されたのは、外資勢からはアメリカのゴールドマン・サックスとカナダの不動産ファンド、ベントール・グリーンオーク。国内勢からは、不動産ファンド大手のケネディクスだった。

残る1社が、最後までもつれた。「1社だけ、連れてきていいですよ」。電通がこう告げた相手は、みずほ信託銀行だ。電通のメインバンクを務めるみずほ銀行とのつながりで、自ら買い手候補を選定することを許された。「みずほ枠」、関係者の間ではこう称されている。

当初、みずほ信は外資系不動産ファンドを軸に打診した。だが価格水準で折り合わず、選定作業は思うように進まない。悩んだ末に白羽の矢を立てたのが、同じみずほグループを出自とするヒューリックだった。もしみずほ信が外資と交渉をまとめていたら、結果は大きく異なっていただろう。

無事に電通本社ビルを落札したヒューリック。だが、同社が9月に公表したプレスリリースでは、電通本社ビルについて「取得」ではなく「出資」と表現している。ビルを保有するのは、厳密にはSPC(特別目的会社)の「芝口橋インベストメント」だからだ。ヒューリックのバランスシートにビルは計上されていない。

SPCの資本金は1110億円。このうち、ヒューリックは49%に当たる543.9億円を出資している。連結子会社にならないギリギリの水準だ。このほかみずほリースが2~3割を出資し、みずほ銀行も融資を行った。

投資家から出資や融資を募り、SPCを母体にして物件を取得する――。これは不動産ファンドの手法そのもの。電通本社ビル争奪戦の勝者も“ファンド”だった。

あらゆる不動産に流れる海外資金

こうした著名な大型ビルから中小型ビルまで、海外からの資金は国内のあらゆる不動産に流れている。不動産サービス大手CBREによれば、海外からの投資額は2021年だけで103億ドルに上った。

「日本での不動産投資を拡大したい。知恵を貸してほしい」。CBREの辻貴史マネージングディレクターの元には、そんな海外投資家からの相談がひっきりなしに舞い込む。「オフィスビルや物流、住宅などあらゆる用途で引き合いがある。多少空室リスクがある物件でも気にしない。日本での実績がない投資家の問い合わせも増えた」。

日本の不動産に世界から資金が集まる理由はもっぱら金融緩和だ。機関投資家は株式や債券など伝統的な資産だけでは潤沢な運用資金をさばけず、不動産にも一定割合を振り向けざるをえない。主要な不動産市場である欧米だけでは消化しきれない資金がアジア、そして日本へとあふれ出る。

日本は諸外国と比べても不動産市場の裾野が広く、東京のみならず大阪など地方での取引も活発だ。取引の制度も整備され、約束はきちんと守られる。政権が変わっても大胆な政策転換が起こりにくい。

そして何より、日本だけが超低金利政策を続けている。不動産投資はレバレッジをかけることが通常のため、調達金利が低いほど投資家が得られるリターンも増える。

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