日本は公務員減らしすぎ?都庁改革で見た超本質 日本の行政はまるでログインできないAmazon
デジタル化の真の価値はIDにある
宮坂:「デジタル化によって行政サービスが向上した」という実感をもっていただける最も効果的なポイントが「ID活用」です。
前職(ヤフー代表取締役社長、のち会長)で「GAFAが潰れるのはどういうときだろうか?」と考えたときがあったのですが、そのときに出てきた答えは「IDが消えたとき」だったんです。もしアマゾンのIDが一斉に消えたとしたら、あの巨大なプラットフォームはただの額縁になってしまいますよね。買い物しようとするたびに、名前や住所を入力するなんて、もう耐えられないと思います。
翻って、今の日本の行政はまさに「ログインできないAmazon」状態なんです。用があるたびに、毎回申請書に記入している。ここを飛び越えて「ログインできるAmazon」に変えられるのが、ID活用なのだと社会全体に理解していただき、その価値を高める努力をする必要があります。
政府にデジタルデータを預けることに対して安心してもらえるセキュリティー対策も怠りなく進めないといけません。
新浪:人々の間でも「国に資産は見られたくない」という心理と、「困ったときは国に助けてほしい」という心理とが入り混じっていて、複雑で難しい問題ですね。
宮坂:改革の先に何があるのか、そのイメージ、ビジョンを伝えることももっとやっていかないといけないと感じています。
デジタル化が進んだ先の構想として、東京都が打ち出しているのが「バーチャル都庁」というものです。平成元年に西新宿に都庁が移転してから30年余りが経ち、次に都庁が移転するとしたらと考えたときに浮かぶのは「クラウド」という発想です。
職員は毎日出勤する必要はなく、窓口はリアルではなくすべてバーチャル上に移行している。個人のスマホやパソコンの中に、その人専用の「バーチャル公務員」が常駐していて、「あの手続きは済んでいますか?」「こういうサービスが始まりましたよ」とワンストップでガイドしてくれる。
新浪:便利になりますよね。
宮坂:ここまでできれば究極のプッシュ型行政が実現するわけですが、大前提になるのが「個人に関するビッグデータを行政は保有してもいい」というコンセンサスが社会全体でとれていることです。簡単ではないかもしれませんが、ここまで行ければ、できることがかなり変わってきます。
たとえば、給付金も郵送や窓口申請を基本とした現状のシステムで都民1400万人に配るのは莫大な事務コストがかかります。総事業費の1〜2割は平気で吹っ飛んでしまうくらいです。