石油元売り大手5社、すべて赤字転落の衝撃 原油安が直撃、巨額の在庫評価損が発生

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縮小

ただ、在庫評価損益の影響を除いた真水ベースでの収益は順調かというとそうでもない。業界最大手のJXは、石油精製事業の利益計画が昨2014年11月に修正した計画対比で160億円下振れた。2014年度末までに業界全体で精製能力の削減や製油所の閉鎖をしたことで、石油精製マージンが改善する見込みだったが、油価が急落したことで販売価格が1カ月程度先行して下回り、元売りの年後半の利幅は当初の想定から悪化した。

そもそも石油産業は低燃費車の普及などで構造的に年間2%弱の需要縮小が進んでおり、今後のジリ貧は避けられない。また、アジアでの供給過剰が響き、前期まで収益を牽引していたパラキシレンなどの石油化学製品も利幅は悪化している。

油田開発などへの投資でも減損発生

さらに、原油安は各社の成長戦略にも影を落とし始めている。国内の石油精製事業が縮小を避けられない中、元売り各社は海外の油田開発や金属資源などの上流開発へ積極投資を行ってきた。だが、原油や石炭など資源関連の商品市況が下落する中、今回の決算発表で出光興産は豪州のエンシャム鉱山や北海の石油探鉱・開発事業で合計267億円の減損の計上を余儀なくされた。

JXは今第3四半期決算では減損を認識しながったが、年度末に資源関連資産の再評価を行う予定だ。同じく北海油田や銅、石炭案件などで大幅な減損損失が出る可能性がくすぶる。中でもチリのカセロネス銅山は、銅価格の下落やフル生産体制への遅延が出ており、JXは前年度に続き再度減損を行う可能性を示唆している。中東の油田など上流権益が利益柱のコスモ石油にも原油安による販売単価の下落影響は大きい。

市況の影響を受けやすい上流開発は一般的に20~30年といった長期スパンで投資判断を行うが、想定以上の資源市況下落により従来の計画と乖離が出始めている。今後、一部案件で立ち上がりの遅れや売却などの選択肢が浮上してもおかしくはない。出光興産による昭和シェルへの買収交渉など業界再編の動きも水面下で進む中、各社の収益体質の改善は一段急務となってきている。

秦 卓弥 東洋経済 記者

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はた たくや / Takuya Hata

流通、石油、総合商社などの産業担当記者を経て、2016年から『週刊東洋経済』編集部。「ザ・商社 次の一手」、「中国VS.日本 50番勝負」などの大型特集を手掛ける。19年から『会社四季報 プロ500』副編集長。21年4月から再び『週刊東洋経済』編集部。アジア、マーケット、エネルギーに関心。

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